フィルタリング戦記タクティクス


Certain things catch your eye, But pursue only those that capture your heart.
目を奪われるものがたくさんあるだろう。しかし、心奪われるものだけを追い求めなさい。
『ネイティブアメリカンのことわざ』

・スルー力は有限リソースである。
このエントリでは日々使っているフィルタリング方法を紹介する。
古のインターネットユーザーは「スルー力が大事」だと口を酸っぱくして私たちに教えた。それは真実ではあるのだが、スルー力には限りがあって使うたびに失われていく。それを念頭に置かなければ、スルー力が尽きてインターネットの暗黒面に取り込まれる。
不快な言説に反応しないための忍耐力は消耗品だ。スルーすることが大事だと言われても、目に入った時点で注意力を奪われてしまう。自制心を働かせ、注意深く振る舞い、行動を律さなければならないような状態に追い込まれてしまった時点ですでに劣勢に追い込まれている。
ここではフィルタリングを用いて精神衛生を害するコンテンツを遠ざけ、スルー力の摩耗を抑える方法についてまとめておく。


・広告ブロッカーでコメント欄を非表示にする。

uBlock Origin – Get this Extension for 🦊 Firefox (en-US)

広告をブロックするだけでは無くて、Element picker mode(スポイトみたいなやつ)でコメント欄を消せる。この機能を活用してSNSやニュースサイトのコメント欄を非表示にして、非生産的な言葉を視界から葬り去る。

【参考】
はてなブックマークやYahooニュースなどのコメント欄を消す。

b.hatena.ne.jp##.entry-comment.js-bookmarks-sort-tabs-group
togetter.com###comment_box
news.yahoo.co.jp###yComments

複数の広告ブロッカーを同時にインストールして使い分ける多重AdBlockという荒技もあるが、これはあまり実用的では無かったのでお蔵入りになった。


・ユーザースクリプトで政治的言説をミュートする。

Tampermonkey – Get this Extension for 🦊 Firefox (en-US)
WebAborn(ウェブあぼ~ん) ― NGワードをブラウザに表示させない
※ダウンロードしたファイルをそのまま読み込むとエラーになるときがあるので、七行目の// ==/UserScriptを// ==/UserScript==に変える。

WebAbornを使い、政治的言説や差別用語が含まれている文章を非表示にする。
インターネット上の政治的言説は無益かつ有害であり、精神衛生を汚染していく主要因なので、フィルタリングをして根こそぎ消していく。
当初は大日本帝国的な価値観に親和性がある人たちの言説をフィルタリングしていたが、それだけでは不十分なので戦後民主主義者の政治的主張も同時に消す。情報収集をしているつもりが、政治クラスタの諍いが流れ弾になってこちらまで嫌な気分になるからだ。一説によると他人が罵倒されたり非難されているのを見ているだけでも、周囲の生産性が下がると言われている。(ソースを失念してしまった)
悪意に巻き込まれて不快な気分になるのを避けるために、インターネットやSNS上で政治的な言説を見聞きできないようにする。

・政治フィルタリングの基本戦略

 本書から私はネット右翼の社会的出自や属性については有用な知見をいくつも得ることができた。とりわけ私が気にかかったのはネット右翼の語り口の定型性である。
 私は語り口が定型的であることは書き手の知性の否定的指標だと思い込んでいたが、話は逆らしい。この定型性は意図的に構築されているのである。
『ネット右翼とは何か』書評 - 内田樹の研究室

ネット右翼の特徴は定型的な言葉遣いを用いて勢力を拡大しているのだが、逆に言うとその定型性が弱点になる。よく使われるフレーズ、語彙、トピックを分析してNGワードに反映させれば、フィルタリングで一網打尽にできる。
行動パターンは目に付いたリベラルや左翼に手当たり次第攻撃するという単純なものなので、リベラル・左翼系の人々には盾になって攻撃を引きつけてもらう。これが政治フィルタリングの基本戦略だ。
かつて伊集院光が「毎日ラーメン食べているやつが作ったラーメンランキングは役に立たない。そんなに飽きずにラーメンを食べられる人間と自分の味覚が合うはずが無い」というようなことを言っていた。 そのロジックで言えば、四六時中、政治トピックに言及しているやつと自分の政治意識は合わないと考えた方が妥当だ。

謹製・政治言説NGワード
これはSNSや2chまとめブログのコメント欄から作成した政治言説NGワード試作版です。不愉快な単語が含まれるので閲覧には注意してください。


・hostsファイルを編集して特定のWebサイトにアクセスできないようにする。
Linuxの場合はコマンドラインから sudo nano /etc/hosts と入力して中身を編集している。
127.0.0.1 twitter.com
このような書式でアクセスを制限したいサイトのURLを入力していく。

・Ubuntuから日本語フォントを削除する方法・改良版
OSから日本語フォントを削除して、インターネット上の日本語を表示できないようにしている。不愉快な気持ちになることがわかっていてSNSを開いたり、時間の浪費でしか無いと知っているのにオンライン麻雀天鳳にアクセスしてしまうのを未然に防ぐための処置だ。
過激な方法だが日本語環境から完全に逃れたいときには有効だ。

以前はすべてのフォントをアンインストールして英文フォントを一つ入れるという方法を用いていたが、不具合が出るようになったのでより洗練されたやり方で対処する。

Ubuntu 19.04編
apt list –installed > hoge.txt
このコマンドを使ってインストールされているパッケージをテキストファイルに書き出す。その中でfonts-と書かれたパッケージの中から日本語に対応しているフォントを削除する。

/usr/share/fonts
このあたりのディレクトリにフォントが格納されているので、容量の大きそうなファイルを検索して日本語フォントっぽいものに見当を付ける。洗練された方法で対処すると言ったが、フィーリングで削除していく野蛮な手段を用いる。
Ubuntuで使われている日本語フォントはfonts-noto-cjk fonts-droid-fallbackの二つなので、下記のコマンドを使ってシステムから日本語を消す。

sudo apt-get purge fonts-noto-cjk fonts-droid-fallback

これで日本語が表示されない環境になるはずだ。


・感情のフィルタリング
ニュースを見ていると、意味も無く感情を揺さぶられる。オリンピックのニュースで高揚感を、京アニのニュースで悲しみを、韓国輸出制限のニュースで憎悪と敵対心を煽られているような気がして、感情のアップダウンに耐えられない。
心臓に直接手を突っ込まれて、感情を集団に同期させられて、自分の意思とは無関係に喜んだり、怒ったり、悲しんだりするような主体性の無い感情に取り込まれる。それは自分の五感が生み出した自然な感情ではなくて、促進剤で無理矢理に増幅(アンプリファイ)された情動だ。
どれだけフィルタリングを駆使しても不快な情報を完全に遮断することはできない。不意に襲ってきた感情をどのように捌くのかというのが、メンタル・フィルタリングと呼ばれる手法だ。
ある情報を目にしたときにどのような感情が湧き上がり、それが自分の行動にどう影響を及ぼすのかを観察することからすべてが始まる。自分の場合は「時事問題を目にする→怒りや、義憤などの感情がわき上がる→それらの感情を解消したいと思うがままならず、欲求不満に陥る」という感情の中毒サイクルにはまり込んでいることが多い。
アダルトコンテンツで欲求不満を感じても射精というカタルシスが用意されているのだが、政治経済の問題にはそれがない。一朝一夕で解決できる問題は少ないから、どうしても逃れられないストレスを抱えることになる。そういった観点から考えれば、安倍政権打倒という政治的カタルシスを求める日本共産党の志位和夫は、安倍晋三に射精管理されているようなものだ。

ネットで流通しているのは人間にとっては根源的な感情だ。義憤や悲痛、憎悪、高揚感、集団意識といったプリミティブな感情は強度が高く、それ以外の共有しにくい感情や情報は埋もれてしまう。
その過程で私たちは、他者と共有しやすい感情だけを感じるように調教されているのかもしれない。感情を抱く行為それ自体が、社会的なプロセスの一部になって、自分にしか理解できないパーソナルな感情を抱くのが難しくなる。共感やシェアしやすい感情だけが流通して、他者と分かち合うことが難しいいびつな感情に触れる機会を失っていくのでは無いのか。
パーソナル・コンピュータがソーシャル・ネットワークに変わったのは、示唆的なことだと思っている。コンピュータは個人(パーソナル)なもので、インターネットにつなぐ行為は現実社会と距離を置くことと同義だった。すくなくともそういう時代があって、現実とネットは混じり合わない別の社会だった。
そこからソーシャルネットワークが現れて、感情を共有することが大きな力を持つようになった。共感力が高い情報が優先的に拡散されて、それ以外の共有されにくい感情はこぼれ落ちるようになった。インスタントに感情を刺激する情報が溢れていて、自分の情動をマネジメントする方法を考えなければ簡単に感情の主導権を失ってしまう。
フィルタリングは情報を消す技術では無くて、「得られる情報と、自分の感情をどのように制御すれば幸せになれるのか?」という方法論でもある。