BL師匠日記


・出会い系サイトで女性として登録して遊んでいたのだが、男からメッセージが大量に届くので驚いた。男の性欲を目の当たりにして、この男性器に支配されている生き物の存在を悲しむ。差出人のおっさん、運営に高い金を払ってネカマのおっさんに性交要求メッセージを送っているんだよな。
 結局おれは腐女子のふりをして、日記帳にユーリ!!! on ICEのオメガバース妄想を書き綴っていた。オメガバースとは男に発情期があり、直腸に子宮のような器官が生まれ、妊娠できるようになるというBLの設定である。ユーリ!!! on ICEの世界は男に発情期があり、肛門性交で妊娠する。ヴィクトルが勇利の子供を孕んでハッピーエンドになるという妄想感想文を延々と出会い系サイトに投稿するおっさん。この世界の果てにいる魔物と化す。

十年前のおれは百合を愛する普通の青少年だった。その過程で「ソフトな描写のBLなら読めるのではないのか?」と思ってBL文化に手を染めた。百合漫画家さんの中には、BLを描いている人も少なくない。
 好奇心の赴くままに守備範囲を広げていくあいだに、おれは男と男が発情期の本能に突き動かされ、獣のように交尾をするBLを読むようになってしまった。人間の常識が通じない惑星に降り立ったような気持ちを抱き、困惑する。(これをBLプラネットを呼ぶらしい)
 女性がBLをどのようにして楽しんでいるのかがわからない。男性向けのエロマンガであれば射精が主目的となり、百合漫画を読むのは決して手に入らない魂の片割れを探す行為である。じゃあBLはどうだってんだ。百合と日常系萌えまんがが、性や生々しさを排除して綺麗な精神的世界を構築するのに対し、BLは肉、陰茎、アナルセックス、オメガバースと言ったように挿入と射精を突き詰めていく。とはいえペニスが写実的に描かれているわけではなく、あくまで白く塗りつぶされている場合が多い。
 俺は成年向けエロマンガの要領で、グロテスクなペニスが克明に描かれているものだとばかり思っていた。でもそうじゃ無い。これは読み手の射精を促すために描かれているのではなくて、もっと別の、異なった、俺の決して知ることができない人間性の闇を慰めるために作られている。ぶっちゃけ、アナルセックス=百合漫画でのキスぐらいのレート換算の世界だ。

 荒ぶるままにユーリ!!! on ICEの妄想日記を描いていると、腐女子見習いの女の子に、おすすめのBLを聞かれるようになった。(ちなみにそのときには勇利はヴィクトルに強く、ヴィクトルはユリオに強く、ユリオは勇利に強い……という三すくみの関係性を与え、そのうえで3Pというろくでもない状況について熱く語っていた)
 おれは腐女子見習いガールに、なんか適当に心に響いたヤンキー漫画を「これが男の友情だ! ホーリーランドを読め!」みたいなことを言っている間にBL師匠と呼ばれるようになる。BL師匠! でもあたい、雄なのよね。あたいの本性は腐女子では無くて、百合漫画を見ているうちに男もいけるんじゃね?と思ってBL魔界に踏み出しただけなの。あんな百合漫画のヒロインがキスするような感覚で、アナルセックスするような文化圏は、本当はあたいの居場所じゃ無いの。男と男が拳で殴り合って、お互いの孤独を癒やし合うようなヤンキー漫画こそがあたいのBL定義なの。でもあたいは、チャンピオン系の画風で男の子同士がいちゃいちゃしながらお菓子を作るような漫画が読みたいの。こう、登場人物の布陣と内容がゆるゆりで、画風がクローズみたいなやつを……。