新番組! 死にたい!


心の中で自殺系日常アニメ「死にたい!」をオンエアしている。これは俺の心の中の百合四コマ雑誌『こみっくタイム LiLyRic』に連載中の漫画が原作で、自殺願望のある女の子が樹海散歩に行ったり自殺方法を検討したりする。死に場所を求めてさまようデッドオアアライブ日常アニメである。
アニメOPテーマソングは「死にたいっ♪(歌・†すーさいだーず†)」だ。ものすっごいアップビートなサウンドと軽快なメロディに乗せて、「死にたいっ! 可能ならば、今すぐにでも〜♫」という陰鬱な歌詞が歌われる。きららジャンプに相当する部分がどう見ても爽やか飛び降り自殺だ。
あまりにも未来が感じられない鬱作詞と、ハイテンション・ハイテンポな曲調が化学反応を起こし、口ずさんでいる間になんか楽しくなってくる。副作用として、常日頃から自殺したいと思っている人間ほど、「死にたい」とつぶやくたびにこの曲が自動的に頭の中で流れ始めてしまう。おちおちネガティブシンキングもできなくなるのだ。
こういう日常系アニメを見たくて仕方が無い。

第一話「大量の薬はヨーグルトに混ぜるといいんだって」
主人公は生きていくのが辛い女の子だ。服毒自殺をするべく完全自殺マニュアルに載っていた薬を探すのだけれども、ブロムワレリル尿素が配合された市販薬が見つからない。昔は市販薬も何十箱か大量に飲み干せば死ねたのだが、市販薬の濫用が社会問題になって以来、規制が厳しくなってしまった。 何件もドラッグストアをハシゴしていると、同じように薬を物色している女の子が視界に入る。「もしかしたら、あの子も自殺志願者なんじゃないのか?」と疑うあたりから物語が動き始める。主人公はこの子が電車に飛び込むと勘違いして、「死んじゃ駄目だよ!」と止めに入ることで自殺友達になった。この子は生きていくことに意味を見いだせないニヒルな女の子だ。
「人生は一度しか自殺できないのだから、絶対に最善の方法で自殺する」
そう思った二人は自殺方法を検討したり、自殺名所を尋ねたりして、百合心中目指して突っ走っていく!
第二話「飛び降りはせめてビル五階以上で」
**第三話「練炭で秋刀魚を焼いた」**は練炭自殺をするつもりで自殺サイトで仲間を集め、ホームセンターで道具を買いそろえる。自殺サイトで知り合った三人目のキャラクターは躁鬱病で、テンションの落差が激しい。なぜかいつの間にか秋刀魚を焼いてしまう。
ちなみに制作委員会の名称は、この自殺サイトのタイトルから取られている。
第四話「からだが痛いと、こころが痛くなくなる」
四人目のキャラが加入する。この子はリストカッターで自己嫌悪がひどい。このキャラの自傷を止めるために、主人公たちは新聞紙を破ったり、氷を握り締める方法を伝授する。自分を傷つけたいと思ったときには、別の方法で、身体に刺激を与えることでどうにかして乗り切るのだ。実用性が高い回である。
ここまでの全体的な感想は、死にたいと言っている割にこいつら絶対死なないなって感じだ。
第五話「電車と止めると遺族にいくら請求が行くか知ってる?」
第六話!
「「「「うみだーーーー!!!!」」」」日常アニメおなじみの水着回! ……を誰しもが期待するアバンだったが、場所は海ではない。「樹海(うみ)だー!!」と叫ぶ場面から始まるのが、**第六話「樹海で死にたい!」**だ。
この回では、樹海で自殺する前に下見に訪れる。樹海で誰にも知られずに死にたいと思っていたが、自殺者の死体が写真に撮られたり、樹海名物になったり、サブカル野郎が自己承認欲求を満たすための道具になってしまう。死んだ後も生きている人間のおもちゃにされて、樹海テーマパークのアトラクションの一つに成り下がることを知った主人公は、樹海での自殺を諦める。
※帰りに温泉につかる。胸囲比較表・躁鬱>>>主人公>自傷>>ニヒル。
第七話「変死者の数はだいたい十万人なんだって」
第八話「首を吊るのに最適なのは柔らかい布」
第九話「雪の降る日は綺麗に死ねる」
このような具合の緩い展開は死ぬ死ぬ詐欺とまで言われ、視聴者は心を許し始めていた。が、**第十話「抗うつ剤が効いてきたときに注意すること」**のラストで主要キャラの一人が自殺してしまう。躁鬱病でテンションの乱高下が激しいキャラだ。殺しても死なないとまで言われていたキャラが、死ぬ。何の前触れもなく、あっさりと自殺する。抗うつ剤が効いてきて、行動力が戻り始めたころだったから余計に衝撃的だった。

第十一話「     」
初めのうちは「自殺するぐらいなら、そのまま姿をくらませて南の島とかでゆっくり暮らせばいいじゃーん☆」とか言っていたキャラなのでいまいち自殺してしまったという実感が持てない。
本来ならそこにいるはずの誰かがいない、という欠落感を強調させる画面のレイアウトが延々と続く。主人公は、「この子でも自殺しなければならないのだとしたら、自分なんていつ死んでもおかしくないのでは?」と思う。
ことさら悲しむわけでもなく、ドラマチックな別れがあるわけでもなく、実感が持てないまま、淡々と物語が進む。登場人物の自傷癖が再発したり、精神安定剤を飲む量が多くなったり、みんな自殺に影響されて精神のバランスを崩す。
最終話「死にたい気持ちは消えないけれど」
でも主人公が、「私は死にたくてしかたがないけど、みんなが死んじゃうのは嫌だよおお!」と号泣するんだよ。謎の説得力があるこのシーンはGIF画像として、長い間自殺掲示板やインターネットに貼られ続けることになる。アニメを見たことがなくても、このシーンだけなら知っているという人は大勢いる。
それに対して、 ニヒルちゃんが「私だって死にたくないよ!!でも死にたいんだ! どうしたらいいのかわからない」と泣きわめく。いつもは生きることに絶望している様子を隠さないキャラだったので、この変貌は逆に引く。
それから生き残った登場人物が、自殺した女の子を弔うために個人的な葬式を行って物語は終わる。少女たちは死者の欠落を抱えて生きていくのだ。
この番組では次回予告のたびに、「来週まで生きましょう♪」とか「次の回まで死ぬなよなー」と登場人物が言っていた。「ひだまり荘で待ってます」のノリだ。最終回は主要登場人物が集まって「二期まで生きてよう!」と笑顔で言う。しかし二期は絶望的で、死にたい難民たちは永遠に訪れることのない二期がやってくるまで死ねない身体になってしまった。俺はまだ死ねずにいる。
ちなみに次期の同時間帯新番組は「元社畜の亡霊騎士(ファントムナイト)」だ。「過労のあまり自殺した男が、亡霊として異世界に転生する」という内容で、視聴者は「自殺するのかよ!!」と突っ込まざるを得なかった。