リソース最適化ゲームとしてのFinal Fantasy XII


リソースを最適化することから得られる快楽がFF12の醍醐味で、ユーザーは限られたリソースを効率的に運用してリターンを得なければならない。単調な稼ぎを繰り返して最高の装備で身を固め、すべてのライセンスを取得して最強キャラを育成するのは邪道だ。
限られた持ち物から最適な装備品の組み合わせ、ライセンスの取得、立ち回りやガンビットの設定を組み立てることの方がおもしろい。盾役に防御力の高い装備を重点的に支給して、それ以外のキャラは初期装備でもなんとかなる。
オリジナル版のFF12は、MPの足りなさや金策の乏しさ、経験値を稼いでごり押しすることが批判されるのだが、リソースの最適化を行わないでプレイしていれば自ずとそうなる。
FF12はリソースマネジメントゲームで、限られた資源を最適化して最大限の効果を生み出すことがユーザーに求められる。パーティ全員分の防具をそろえるお金が無くても、「じゃあ一人にいい防具を装備させて、そいつに敵の攻撃を全部集中させるような戦略を立てよう」「アタッカー用に性能のいい武器を買って、攻撃に集中できるような環境を作り出そう」という発想で、リソースを最適化させていく。 目に見えるステータスに変化がなくても、行動から無駄が省かれ、役割が最適化することで消費MPやアイテム、装備に使うお金が少なくなり、より快適に探索できるようになる。その工夫の部分がおもしろい。

これまでのFFは「ジョブに合わせて装備品を整えなければならない」だったのに対して、FF12は「手に入った装備品を最大限に活かせるように、パーティをマネジメントしなければならない」という方向に変わっている。
「竜騎士を選んだから槍以外に装備できないから、強い武器を探す」のではなくて、「ワンランク上の武器がたまたま手に入った。じゃあこの武器を活かすにはどういう風にパーティを運用すればいいのだろう?」となる。
役割は分担した方がいいが、だからといって一つの武器や立ち回りに固執する必要は無い。そのときに手に入るアイテムや取得しやすいスキルに合わせて、よりコストパフォーマンスのいい戦略を組み立てることに快楽を覚える。

・ライセンスボードシステムの戦略的柔軟性について。
ライセンスボードシステムは「時間を掛ければすべてのアビリティを取得できる」と思われているが、実際には「コスト感覚を意識してアビリティを使いこなすための優れたシステム」だ。
低コストのアビリティは柔軟に使えるが、高コストのアビリティを取得するには計画性が必要になるという絶妙なバランスだ。
武器ライセンスが豊富なので、習得コストの低い武器を活用して戦略にバリエーションを持たせられる。
「盾役に状態異常を付与する短剣を装備させる。ダメージよりも追加効果が運良く発動すればいい」とか、「回復役に弱い弓を装備させて、自動的に敵から距離を置くようにする」「属性強化の杖は習得コストが低いので、魔法キャラ全員に装備させられる」「雑魚戦のときには火力を高めるための片手剣、ボスや多数の敵を相手にするときには回避力を上げる武器に切り替える」などの対応が取れるのは嬉しい。
かといって何でも装備できるのではなくて、強力な武器を使うためには習得に多くのポイントが必要になるのもメリハリが利いている。レアアイテムを手に入れても習得にコストが掛かりすぎて、他のアビリティにしわ寄せが来ることも多い。
これは魔法や他のアビリティにも当てはまって、「コスパの高い低レベル魔法を補助的に使う」のか、「魔法職に特化するために、計画的にアビリティを取得するのか」で話が変わってくる。
与えられたリソースを最適化するために悩んでいる時間が最高に楽しい。

このゲームの楽しさは言語化しにくい。あるイベントを終えると新しくできることが増えて、更に別の新しいことにつながっていく。
密猟を覚えて金策が楽になったあたりで、新しいスキルを購入して盾のヘイトコントロールが楽になって、じゃあ防御面が安定したから攻撃役に瀕死時攻撃力UPを覚えさせてもいいと思って、そうなるとより綿密にヘイトを管理しないといけないから立ち回りを考え直さなければならなくなる。
そうすると役割分担が整理されて、特にレベルが上がったわけでも無いのにパーティの総合力が上がり、これまで敗走を重ねてきたダンジョンやボスも攻略できるような気になってくる。新しく先に進めるようになったダンジョンで強力な防具が手に入ったので、これを活かせるようにパーティの立ち回りを再検討して……といった具合に、パーティの役割を完全に固定しないで流動的に最適化していく。

・リソース管理はヘイトコントロールから始まる。
リソースマネジメントの起点になるのが、盾役によるヘイトコントロールだ。
瀕死時攻撃アップやHP満タン時魔力アップといった有用なアビリティの活用や、アイテムを盗むこと、盾役に防御を任せて装備品に費やすコストを抑えるというリソース最適化戦略は、「盾役がヘイトをコントロールできるか否か」に掛かっている。
まず盾役が敵を引きつけて攻撃を受け止める体勢を整えることからすべてが始まるのだが、このヘイトに関する詳細はアルティマニアにも載っていないのが問題だ。
ヘイトコントロールと役割分担に関する説明が全くないのは嫌がらせとしか思えない。せめてチュートリアルで「盾役・攻撃役・回復、サポートの三人パーティで利点を説明する」、「ゲストキャラクターで防御の重要さを印象づけるキャラを出す」などの導線があればよかった。

・状況を支配する快楽
FF12はPS2の処理性能が遅くて、強力な魔法のエフェクトに順番待ちが発生する。派手な魔法を打ち合うような従来のFFシリーズのような爽快感は無い。その代わりに戦闘の流れを支配する快楽がある。完全に敵の行動を制御して、自分が望む戦闘の状況を作り出せる。そのためにアビリティを整えて、装備を集め、敵の行動パターンを分析して、ガンビットを組み、最適な設定を見つけ出す。そうするとマニュアルで細かな指示を出さなくても自動的に敵を全滅させている。
ハードウェアの制約から生まれた不都合さは、別のゲーム性を発展させた。
従来のRPGなら、終盤になると強力な全体攻撃と、全体回復魔法を交互に唱えるような大味なバランスに落ち着くことが多いのだが、それに対するアンチテーゼになっている。
ステータスを強化したり、能力を強化するアビリティと併用することでコストの低い魔法を最後まで活用できるのは、いい設計だ。派手な魔法が飛び交う戦闘がないのは残念だが、「リソースを最適化する」というFF12のゲームデザインには合っている。

・イヴァリースで盗賊として生きる。
FF12の「盗む」は優遇されていて、ゲームシステムの根幹にまで食い込んでいる。これまでのRPGでは「盗む」はレアアイテムを手に入れる時にだけ使われることがほとんどで、敵を倒した方が効率よく稼げる。
このゲームは慢性的な金欠に悩まされるのだが、「盗む」と密猟が使えるようになると途端にパーティの懐具合に余裕が出る。インターナショナル版だと盗むや密猟を使わなくても適当に敵を倒しているだけで、必要な武器を買えるだけの金額が貯まっているのだが、オリジナル版は意識的に金を稼がなければならない。
盗みでアイテムを収集することがパーティの戦力強化に直結しているという点では、ウィザードリィの盗賊に近い。戦闘では非力で役に立たないのだが、宝箱の罠を解除してパーティの強化に必要な装備を手に入れられる。頼りないのだがいてもらわないと困る絶妙のバランス感覚で、ウィザードリィの盗賊はいい感じに調整されていた。
FF12の主要なゲームデザインは「リソースの最適化」なのだが、盗みを駆使して手に入るアイテムの量と質を増やすのもリソースを効率化するためのひとつの手段だ。主人公のヴァンがメインストーリーでは存在感が無いとよく批判されるが、盗賊行為がゲームデザインの主役と言っても過言では無い。
FF12は盗みによってリソースの獲得量が多くなり、金銭面だけでは無くて武器や防具を調達することも可能になる。確率が低くてもガンビットで自動化できるから面倒くささは無い。開幕に盗むのを繰り返していると試行回数が増えるので、思わぬレアアイテムが取得できる場合も多い。
必要なものは盗んで調達して、盗品を売りさばいた金で店頭の装備品を買うのが基本スタイルになる。物価の高いイヴァリースで、律儀に通常ドロップを狙って敵を倒すのは効率が悪い。開幕に盗み、敵が瀕死になったら密猟でアイテムを二重に取得する。
装備品によるステータス上昇の比重が大きい本作において、アイテムを手に入れることに強い動機が生じる。ストーリーを進めていけば店売りされるのだが、それよりも前にワンランク強い武具を入手して戦闘を有利に進められる。
盗賊行為をテーマにして、ゲームバランスを意識的に設定しているのは好感度が高い。
FF12はシステムに癖のある作品だが、リソースの最適化に焦点を当ててみると思ったよりも一貫性のあるゲームデザインになっている。ただ、ネットで情報が出そろっている現在ならまだしも、何の情報もない段階でヘイトコントロールなどの仕様を自力で気がつくユーザーはほとんどいないだろうと思うので、そこだけは不親切きわまりない。

・FINAL FANTASY XII THE ZODIAC AGE

FINAL FANTASY XII THE ZODIAC AGEでは上記のストイックなゲームバランスがすべて大味になっている。オリジナル版とリメイク版を両方ともプレイしてみると、同じ材料のはずなのにゲームの肌触りが全く違う。ほとんど別のゲームだ。
・リメイク版だとゲームバランスが大味になっている。とくに魔法の範囲が拡大したり、ケアルが単体から範囲魔法に変わったことが大きい。両手持ち二人組に前衛を担当させても一気に回復できるので、戦略性が無くなった。
・倍速機能が快適だ。
・ガンビットの種類がはじめから豊富になったのだが、そのせいで簡単になっている。通常攻撃に関しては「最もHPの低い敵→戦う」が便利過ぎて、敵の数が多くても残りHPの少ない敵を自動で狙って数を減らしていく。ハイスピードモードと組み合わせると、特に複雑なガンビットを組まなくても速攻で敵が壊滅していく。
オリジナルだと序盤では「最もHPの低い敵」が使えないので、「瀕死の敵→戦う、リーダーの敵→戦う、目の前の敵→戦う」といったガンビットを組んでいた。
・リメイク版だとジョブによって使える武器の種類が限られるので、状況に合わせて異なる種類の武器を持ち替えるような柔軟性が失われている。
・それは悪いことばかりでは無くて、キャラごとに明確に役割分担しなければならなくなるので、オリジナル版に比べるとベンチウォーマーがいなくなる。
・物価が下がって金策がやりやすく調整されたので、盗むや密猟が無くても十分な金額が貯まるようになった。
・リソースマネジメントの比重が薄れたので、詰まったらレベルを上げたり、その時点で購入可能な最強の装備を手に入れればどうにかなるような雑なバランスになっている。
・悪い意味で装備品ありきのゲームバランスになっている。
・ボスは瀕死状態になると発狂モードになるのだが、ミストナックを連発して強引にねじ伏せるというバランスがあまり好きでは無い。これはオリジナル版にも当てはまる。投げやりに敵を強くして難易度を上げ、投げやりな攻撃手段を準備してゲームバランスのつじつまを合わせている気がする。
・リメイク版を否定的に評したけれども、FF12イージーモードだと思えば文句は無い。ハードモードでオリジナル版を選べれば良かった。
原作とは方向性が130度ぐらい違っていて、同じ素材と同じストーリーで、まったく異なったゲームデザインになっている。オリジナル版はスルメゲーと言われるが、リメイク版はそれにマヨネーズをぶっかけたような感じで、元の風味がほとんど失われている。
オリジナル版のほうが好きなゲームデザインだが、万人向けだとは言えない。何が正しいゲームデザインなのかは、何を求めているかによって異なる。ライトゲーマー向けに調整されたFFを腐すつもりはないし、コアでマニアックなものを理解できるからゲーマーとして高尚だと言う気も無い。自分のレベルにあったものを楽しめればそれでいいと思う。
・倍速機能無しでもう一度PS2版のFF12をプレイしろと言われたら、移動がまどろっこしくてやってられないと思う。