・陰謀論職人感染編


「新型コロナウイルスは中国の生物兵器だ!」という話を聞き、陰謀論職人的には設定の練り込みが浅いと思った。これでは陰謀論検定3級にも合格できない。自分なりに今回の陰謀論を再構成するとなると、如何にして荒唐無稽な陰謀論と大きなストーリーをつなぎ合わせられるのか、というのがポイントになるだろう。
-陰謀論ここから-
中国共産党も一枚岩ではなくて、現在の習近平独裁体制に反感を覚える者たちも多い。中国共産党が資本主義に追随する政策を採り始めたことで、党のマルクス主義者たちは不満を覚えている。彼らが新型コロナウイルスを用いて、中国共産党へクーデターを仕掛けたと考えるのが妥当だろう。
新型コロナウイルスは感染力は高いが、致死率は低い。大量殺人を目的とするものではなくて、グローバル資本主義を麻痺させるために開発されたといっていいだろう。経済を停滞させ、中華恐慌を引き起こして全世界に波及させる。これはただの生物兵器ではなくて、資本主義体制そのものへの戦争だ。今すぐに日本国憲法を改正し、緊急事態条項を設け、核武装と自衛隊の国防軍化と人権の剥奪を通じて、中国共産党マルクス原理主義過激派と戦おう!がんばれ日本!
-陰謀論ここまで-
……ぐらいの与太話をでっちあげた方が、陰謀にもコクが出る。最近の駆け出し陰謀論職人はまとめサイトやYoutubeのフェイクニュース、知識の無さに起因する愚かしさと、精密な職人芸的陰謀論の区別が付いていない。だからすぐに簡単なヘイト煽動に騙される。

新型コロナウイルスがどのような被害をもたらすのか今の段階では予想できないが、いつか収束するだろう。しかし陰謀論は違う。ユダヤ人による世界支配という古典的陰謀論のように、人間の頭の中で長い間生き延びる。それらはウイルスのように突然変異を繰り返し、免疫のない人間に感染し続ける。
インターネットの登場で、陰謀論は生き延びやすくなった。無知と粗野な感情が跋扈し、言葉が簡単に消えることのないインターネットは、陰謀論にとっては最適の培養環境だ。ダイヤモンド・プリンセスなど目ではない。
もし陰謀論がウイルスに近いのであれば、ワクチンや特効薬があるに違いない。そう思う者は少なくない。だがそんなものを求めるのは駆け出しのひよっこだ。「万病に効く治療薬や、不死の妙薬がある」というのは始皇帝も騙された古典的なフェイクニュースだ。
簡単な解決策や答えが欲しい。その弱い心の間隙を縫って、陰謀論は我々の魂に侵入してくる。まずはそのメカニズムを知ることが陰謀論職人になるための第一歩だ。すべての陰謀論やフェイクニュースは我々の願望や弱さから生まれる。底なしの悪意や欲望だけが陰謀論の原動力ではない。誰かを心配する優しさもまた、嘘を拡散する力になる。
陰謀論を知ることは、人間の弱さを知ることだ。そしてそれだけが我々を、破滅的な陰謀論から守ってくれる最後の砦になる。