腐女子日記


##腐女子日記・弱虫ペダルで腐女子人格が芽生えた話
弱虫ペダルを読んでから、本格的な腐女子人格が芽生え始めてきた。
Twitterのプロフィールに「成人済み・腐。生物学上は女」と書いて、延々と弱虫ペダルの妄想を書き綴っているような奴だ。つまり今の自分と大して変わりがない。
中高生時代の偽りの記憶まででっちあげられつつある。坂の上にある学校にママチャリで通学するときに、「総北のジャージをゴールまで届けるんだ!足がぶっ壊れてもいい!もう30回転(ケイデンス)追加だ!」と呟きながら、自転車を必死で漕いでいたような気がする。
私は元々、同じクラスの女子同士の、互いに気を遣ったり、牽制し合うようなコミュニケーションがあまり好きでは無かった。同調して、人の輪からはみ出さないようにして、異質なものを疎外する。表面上は楽しそうに笑っているけど、腫れ物に触れるように扱う。
そんな人間関係に疲れてしまった私には、兄が読んでいたスポーツものの少年漫画が心に刺さる。普段はぶつかって、喧嘩して、怒って声を荒げても、お互いを心の底から信頼し合っている。落としたら砕ける硝子細工みたいな人間関係ではない。彼らの強靱な鋼のような人間関係に憧れたから、私は腐女子になったのかもしれない。
腐女子というと好きなキャラクター同士をすぐに恋愛関係にさせたがるが、ちょっと待ってくれ。BLの本質はそこではない。少年漫画の登場人物でBL二次創作をするのと、商業BLには深い溝がある。私はもちろん商業BLも好きだが、少年漫画特有の男同士の関係性の方に惹かれている。
男が男に向ける強い情念と、甘ったるい恋愛感情を一緒くたにしないで欲しい。恋とは違う形で、相手の存在が徐々に大きくなっていく。そのどろっどろに濁っていて、きらっきらに透き通った感情たちは、BLという言葉をあてがった瞬間に違う何かに変質してしまう。
弱虫ペダルは自転車競技を扱った少年漫画だ。男が男との距離を詰めるために、感情を振り絞り、身体中から体液を垂れ流して、筋肉を限界まで酷使する。自転車は走る個室と言われるが、二人で並走していたらそれはもう愛の巣だ。
ここで私が愛する富×金の妄想怪文書を書く。
ライバル校・箱根学園のキャプテン福富は、かつて総北キャプテンの金城に犯した罪を忘れられずにいる。自分の精神的な弱さ故に、レース中に金城を妨害してしまった過去に苦しんでいる。
早朝四時、過去の悪夢から汗だくになって目を覚ます。福富は葛藤をふりほどくためにロードレーサーに乗って走り込みをするものの、自分の前を走る金城の幻影からは逃れられない。
一年間、福富はこの影を追い越すために血の滲むような努力をしてきた。起きているときにも、練習をしているときにも、金城を意識している。眠っているときにも金城の夢を見る。
来年のインターハイでの再戦を待ち望むとか、ほぼ織り姫と彦星である。
こういう感じの妄想文章を大量に書いているような腐女子になっていたんだろうな……と思っていたが、実際にもう書いている。
弱虫ペダルは少年漫画なのだけど、百合漫画の文法で書かれているとしか思えないシーンが多々ある。よく上級生と下級生の関係が、『マリアさまがみてる』のスール制度扱いされることがあるけれども、マジで妹とお姉様みたいな関係なんだよ。主人公の小野田が巻島先輩に向ける憧れは紛うことなき百合感情だ。
『弱虫ペダル SPARE BIKE 8』 も熱い。永遠のライバルである巻島と東堂の一夏のストーリーなのだが、「これもう自転車マンガとかBL通り越して、ただ純愛マンガじゃない!?」という完成度なので、機会があれば是非とも読んで欲しい。
腐女子人格が爆誕してしまい、普段からこういうことを考えるようになってしまった。生まれてしまった物は仕方がない。腐女子人格をこのまま優しく育んでいきたい。

##腐女子日記・あたいはBLにご執心である。
あたいはBLにご執心である。ここには人生の真実がひとかけらほど含まれていると信じている。BLを読んでいるときに我々は現実社会が要求するジェンダーロールから逃れることができる。固定化された性役割のくびきから逃れて、互いを平等な人間として尊重し合う。それがBLだ。
最初は身体を貪るだけの関係でしかなかったとしても、相手が自分と同じ心を持った人間であることがわかってくる。性奴隷として買ったはずの少年を、いつの間にか同じ人間として扱っている。一番最初は荒々しく陰茎を挿入していたのに、最後にはゆっくりとアナルをほぐして「大丈夫?嫌ならやめるけど……」と相手の意思を尊重するようになる。
あたいは男性向けロリータポルノコミックもたしなむのだけど、BLとは根本的に世界観が違う。男性向けポルノに出てくる女性は性欲充足の道具として扱われるのに対して、BLは登場人物の関係性が対等に扱われている。アナルを丁寧にほぐしピロートークもする。男性向けは射精を促すことを目的に作られているけれども、BLにおけるセックスはコミュニケーションの一手段に過ぎない。
攻めは受けのことを気持ちよくしたいし、受けは攻めが気持ちよくなって欲しい。相手のことを一人の人間として尊重して、大切にしようとする。人間と人間の関係が描かれているところにBLの魅力がある。
それに比べると、ロリータと成人男性では対等な人間関係にならない。どれだけ合意だと言われても、ロリータに手を出した時点でまっとうな倫理観を持った人間ではない。
ロリータはまだ幼く、判断力に乏しい。その無知につけ込んで性行為を行うので関係性が非対称にならざるを得ない。ロリータポルノコミックだけではなくて、男性向けポルノの人間関係は非対称的だ。支配者と被支配者、主従関係、メスガキと敗北おじさん、SM、あらゆる性行為に非対称的な力関係が生まれ、そこから性的興奮が引き出される。
それを否定するつもりは無いけれども、「男性向けのポルノファンタジーは、非対称的な人間関係から性的興奮を得ている」という自覚はあった方がいい。
BLにも発情期設定があったり、肉欲を貪るだけの作品があるから一概には言えない。でも男性向けのポルノファンタジーと、女性が消費しているBL幻想を比較してみるのも悪くは無いとあたいは思っている。BLばかりを読んでいたために、男性向けポルノを見たときに「どうして男が攻め固定なの?」と純粋に疑問に思ってしまうようになった。
このNTRマンガに出てくる竿役は、受けの方が輝くに違いない。いまではそんなことばかり妄想してしまうようになった。でも、あたいの性癖が人混みに流されて変わっていっても、あなたは優しく見守っていてくれるよね?

##腐女子日記・拳絆(こぶしきずな)第三部編
ここ最近は脳の腐女子化が悪性の脳腫瘍レベルで進行している。どのくらいの病状かというと架空のヤンキーマンガを幻視して、架空のスピンオフをでっちあげ、更に脳内腐女子が架空の二次創作をしているような惨状だった。
おれが現在、沼っているのは架空のヤンキーマンガである『拳絆(こぶしきずな)・第三部』だ。少年漫画に連載されていたヤンキーマンガなのだが、キャラの関係性や感情がBLだったり、暴走族の舎弟関係がスール制度を彷彿とさせるなどの百合要素もある。
PSPで格闘ゲーム化されたのでシリーズの中でも知名度は一番高いと思う。物語の中盤で〝最凶〟・狭間健次郎と〝最狂〟・波野大のヤンキーコンビが主人公の敵として立ちはだかる。血で血を洗う死闘。その中で描かれる狭間と波野の並々ならぬ因縁と友情に涙して、道を踏み外した腐女子は多い。
その狭間と波野の中学生編を描いたスピンオフ作品・『漢絆(おとこきずな)』が連載され始め、心の中の拳絆BLクラスタが沸き立っている。
荒んだ日常の中で生まれ育った二人。信頼できるのは暴力と、相手一人だけ。この世界にたった二人ぼっちで生きる〝最凶〟と〝最狂〟が、最強を目指す物語だ。
虐待され、捨てられ、大切な人に裏切られ続けた彼らの日常があまりにも不憫なので、腐女子たちはほんわか日常BLを二次創作することで心を癒やしていた。たいやきを半分こして、あんこの多い方を相手に押しつけ合うSSとか書いてる。
そこまでやることほとんど一次創作だ。

オタクが不良マンガに惹かれるのは理由がある。スクールカーストの底辺でひっそりと生きている我々は、『拳絆』で社会に居場所を見いだせないヤンキーに感情移入してしまう。
普通の人間がやっている、当たり前の人間関係が築けない。オタクは日常生活で使う言葉ではわかり合えないから、薄暗い部屋で延々とキーボードに向かって長文テキストを吐き出したり、絵を描いたりすることでしか人と関われない。『拳絆』の登場人物たちも不器用な奴らばかりで、拳で語り合うしか無い。
わかり合えない人間たちが、お互いの「わかりあえなさ」を叩きつけ合って、そこに細いつながりが生まれる。そういう意味では私たちはインターネット・ヤンキーである。
女子同士のコミュニティは陰湿だと言われるが、スクールカースト最下層なので具体的なことはわからない。でも『拳絆』クラスタは「殴り合ってわかり合う」というヤンキーファンタジーが生きているので居心地がいい。
よくCP解釈やお気持ち表明などでタイムラインが荒れるときがある。そういうときには、『拳絆』クラスタのインターネット・ヤンキーどもは「決闘だ!屋上ォォォォ!!」と言って、言葉で殴り合い始める。思いの丈をぶつけ合った後に友情が芽生えることも多く、マブダチや舎弟が増えていく仕組みになっている。
私もこの前は〝最凶〟・狭間健次郎が受けか攻めかで深夜四時まで大乱闘を繰り広げていた。
今度のコミケでコスプレでもするか……と思い至り、地元の書店へと向かう。『拳絆』のコスプレイヤーはマスクを欠かさないので、疫病が流行るこの時代でもイベントに参加できる。特攻服の資料を探すべく改造バイクが載っている雑誌コーナーに足を運ぶと、食い入るように本を眺める同級生がいた。名前は知らないけど、確かとなりのクラスの女子だ。話したこともないし、つるんでいるグループも違う。でも、わかってしまった。こいつは自分と同類の匂いがする。
これが後に『拳絆』壁サークル「北瀬川怒羅津拳(ドラッケン)」になるとは、このときの私は想像もしていなかった。……というところまで妄想した。もう百合かBLなのかわからねえな、これ……。

##腐女子日記・ワクチンの副反応でNTR・BL妄想をしていた。
新型コロナウイルスのワクチン二回目を摂取したら、副反応で体温が38.6度まで上がった。朦朧とする意識の中で考えていたのは「どうしてNTRもののマンガで、寝取る側は男を狙わないんだろうな?」という素朴な疑問だった。
「なあ、○○……。××ちゃんの大学推薦を取り消されたくなかったら、どうすればいいのかわかるよな? 女装しておれの部屋に来い……」こういう内容のNTR女装BLを読みたい。読まずにこのまま死ねるか……!という気持ちで熱にうなされていた。普段のおれにはこんな性癖はないのでワクチンの副反応に違いない。
NTRものに対して強いBLの波動を感じるときがある。あたいは男が男に対して向ける強い感情が大好物で、NTRものは実質BLではないのかと思って読んでいる節がある。
寝取る側の男が寝取られる男に対して何らかの執着を抱いているシチュエーションが好きだ。「勉強でもスポーツでもあいつには叶わない。だがあいつが大切にしているものを奪い、陵辱すれば見返せる!」
こんな歪んだ感情が交錯するNTRものを読みたい。彼女を寝取った後に相手を呼び出してダメージを与えようとするのだが、寝取られた側は「そっかー、二人ともセフレだったんだねー♪」と飄々と喋って欲しい。その後に耳元で「その子もそろそろ飽きてきたから、僕のお下がりで良ければ君にあげるよ♪」と囁かれて完全敗北して欲しいし、逆上したNTR男が無理矢理犯して、いや……寝取り男が寝取られた方に逆に寝取られた方がエモいのか……?
だめだ……ワクチンの副作用で朦朧としてきて思考が混濁している。