通り魔ゲーム
「通り魔ゲーム」というものを開発する。
これは自分の身体感覚を鍛えるためのもので、主に人通りの多いところで遊ぶ。「もし自分の後ろをとった人間がナイフを隠し持った通り魔だった場合、確実に死んでいるような隙を見せたらライフポイントが一つ減る」というものだ。主に、背後への意識がお留守になって、ナイフで刺されても仕方がない状況になると負ける。
通り魔ゲームで最初に立ちはだかる敵は、ナイフを持った男だ。
通り魔ゲームの前身となったのは、「イスラム国ゲーム」である。
日本の治安が悪化し、日常的に紛争や銃撃戦が起きるような状態になったときに、どういう風に振る舞うのが最適なのかを考えて動く遊びだ。
カラシニコフで武装した民兵がこのゲームでの敵だ。
突如として市街地で銃撃戦に巻き込まれた場合に、何とかして身を守らなければならないという状況を想像して遊ぶ。遮蔽物を利用する、地面にうつ伏せになって銃弾があたる面積を最小限にするなどのイメージトレーニングを重ねながら、なんとか生き残れそうな場所を素早く探せるようになるのが目的だ。
冷静に考えると「学校がテロリストに占拠された場合にどう活躍するのか?」という中学二年生がよく行う妄想の発展系だ。しかしポゴ・ハラムが小学校を襲撃して子供たちを拉致していく時代である。
住んでいる街が突如としていISと多国籍連合の戦場になってしまう日常が、確実に存在しているのだよなぁ……と思いを馳せながら、イスラム国ゲームに興じていた。
逆通り魔ゲーム
逆通り魔ゲームは、自分がナイフを持った通り魔だと想像して、通行人に近づく。ナイフで頸動脈もしくは背中を狙えるようなポジションを確保できればライフポイントがひとつ増えるという暗黒ゲームだ。
駅のホームでぼんやりと立ちながら、「あの人、いきなり後ろから誰かに突き飛ばされる可能性を想定していないんだろうなぁ」と考えているのだが、どう考えても危険人物でしかないし、自分もまた誰かに後ろから突き飛ばされる場所に位置取っていることが多い。
たまたま殺されていないだけで、そこに通り魔がいたら死んでいたような状況は一日に何度もあったのだと思う。
「男が外に出れば、常に七人の敵がいる」という言葉がある。
通り魔ゲームのハードモードでは、七人の通り魔に全く隙を見せない状態を保ち続けられればクリアできる。
どこかの武道家は、不意の事態に備えて、とっさに動けるように常に片足に重心をかけておくという。あるサバイバルの本には、電車に乗る時には事故にあっても生き残れるようになるべく後部車両を選んでいると書いてあった。
僕たちは自分が死なないことを前提にして日常生活を送っているし、周りの人間がいきなり包丁で切りかかってくることを想定していない。
そんなことに悩まなくても日本では死なないのだけど、生物として大切な感覚が麻痺しているのだろうな。