「まほうのスマホ リリック&マリック きらきらへんしんフォン」(メーカー希望小売価格 6800円)


バンダイがモバイル事業に参入する可能性は十分にある。まだスマホを持っていない最後のフロンティアである児童向けマーケットに最適化したスマホをリリースし、自社サービスに囲い込むことで、アップルやGoogleが独占するモバイル市場に攻勢を仕掛けるのは、決して荒唐無稽なアイデアではない。
「HUGっと!プリキュア おしごといろいろ!プリキュアミライパッド&メモリアルキュアクロックセット」のメーカー希望小売価格は13,824円(税込み)だ。それに対して新興国で売られているエントリースマホの値段はだいたい4000ルピーである。日本円に換算すると約6000円だ。

Amazonは自社の端末を原価に近い値段で販売し、消費者を自らのマーケットに囲い込もうとする。端末は赤字でも、将来的にAmazonを利用してくれるようになれば十分に元が取れる。これが経営判断だ。
おもちゃ会社もこれまでのような子供だましのスマホ風おもちゃではなく、親御さんのスマホと連絡が取れるような実用性の高い機種を売らなければならない。そうしなければ、少子高齢化を迎える日本社会では生き残ってはいけない。のちのちバンダイの通信プラン、バンダイのメッセンジャー、ソーシャルネットワークを使わせ、バンダイのエコシステムにつなぎ止められれば、莫大な利益が約束できる。打倒Lineも夢ではない。
そのような意図とともに企画されたアニメ『まほうのスマホ リリック&マリック(日曜10時)』と、目玉商品である「まほうのスマホ リリック&マリック きらきらへんしんフォン」(メーカー希望小売価格 6800円)だ。
 スペックはクアッドコア1.1Ghz、メモリ512MB、ストレージ4GB、1800 mAh Battery、4.5インチ、500万画素カメラ……といった、低スペックスマホである。メッセージ交換と両親との通話、カメラ撮影、おっさんのいない安全なSNSと、危険のない検索エンジンという触れ込みでヒットした商品だ。
これに目を付けたのがギークどもだった。搭載されているOSはubuntu phoneに搭載されていたものの派生版であるバンダイ独自のOSだ。新興国やフィーチャーフォン向けにはFirefox OSの派生版として公開されたKaiOSがある。これはandroidの動かない低スペックのモバイル端末向けのOSで、Googleが資金を投資をしている。
リリマリフォンの独自OSは軽量で、ルートが取り放題であり、カスタムロムも自由だ。日々制限が厳しくなるモバイル端末市場において、カスタマイズや魔改造が可能な遊べるおもちゃだった。ここに目を付けないやつはアーリーアダプターではないと言われても反論はできない。googleにもappleにもうんざりしていた人間はすぐさまリリマリおじさんなり、端末購入後に独自のあたらしいフリーオープンソースOSを作り始める。リリマリ魔改造スマホである。
子供がスマホ中毒にならないようなシステムや制限が練り込まれているので、集中力と生産性が上がるライフハックツールとしてもてはやされ、一躍まほうのスマホはベストセラー商品になった。
問題はいい年した大人がきらきらの宝石がついた女児向けスマホをまじめな顔で利用している点だ。リリマリおじさんは女児に擬態して専用SNSを利用する。これはヘイト発言に溢れ、日々世知辛くなるインターネットに疲れていた現代人にとって心のオアシスになった。この場所にヘイトや醜いものを持ち込んではならない。無言で結託したリリマリおじさんたちは、女児として振る舞うための特訓を重ねた。以前は犬がインターネットをやっていても誰にも気づかれないと言われたものだが、現代では女児なのかおっさんなのかの区別がつかない。
このまほうのスマホ リリック&マリック、内容はスマホ教育アニメだ。学校裏サイトで陰口が拡散されたり、喫煙画像がネットに広がって大惨事になる。知らない人に自取り画像を送って悪用されるという身近な事件を解決して、子供たちにITリテラシーを叩き込むという良心的な番組だ。むしろ大人が見ろ、とまで言われている。
第一話では課金問題が扱われる。ガチャで借金を作って、魔法世界で強制労働させられるシーンは胃が痛くなった。その労働の給料が10連ガチャ一回なので、無限に働かされる。最新話ではネットで発したデマによって現実の方が塗り替えられていくホラー回だった。