インターネット悪霊の挙動について。 あるいはインターネット呪術師ウグー・ソロモン・ツキミヤと私。


 スマホでインターネットに繋いでいる連中は浮遊霊のようなものだと見なしている。
 炎上で積極的な発言をするのはネットユーザーの中でも0.5パーセントだと言われているが、それでも100万人いたら5000人だ。日本語ユーザーでも選りすぐりの性根の腐った屑が大集合である。もはやインターネットユーザーというよりかは悪霊だと思って対処した方がいい。

 悪霊は人間の生命力を損なう。地縛霊のようにその場に居着く。仲間を呼ぶ。力では殺せない。匿名の影に隠れて、戯れに他人の人生を破滅させることに喜びを見出す。インターネットユーザーと悪霊の挙動はほとんど一致している。邪悪な思念を撒き散らかす人間こそが、この時代の悪霊だ。
 スマートフォンが普及した結果、人類社会はインターネット呪術時代に入った。負の感情を煽り、虚偽の情報を垂れ流し、人を盲目にする邪悪な力に晒されている。
 本来なら空気に融けるはずだった言葉はデジタル情報に変換され、長い間インターネット空間を汚染する。悪貨が良貨を駆逐するように、思慮を欠いた発言、感情に振り回された言葉、低コストで量産できるフェイクニュースが力を得る。
 言葉は人間の口から発せられた後にも、この世界にとどまって一人歩きを始める。本人が喋ったことを忘れても、電子化された言葉は無際限に増殖していく。シェアされた瞬間に文脈から切り離されて、自分のあずかり知らないところで勝手に解釈されるようになる。炎上し、togetterかはてなブックマークに掲載されれば、悪霊が日本中から集まってくる。言葉は通じない。聞く耳も持たず、見たい現実しか見ない。そんな連中に目を付けられたら、逃げる以外に有効手は無い。が、この地球上に逃げる場所は残されていない。
 現時点でインターネット悪霊に目をつけられたら、破滅する以外に道はない。
 おれににできる唯一のことは、インターネット悪霊の性質を逆手にとって、時間を稼ぐことだけだ。ここに政治とスモウレスラーの不祥事、セクハラ発言がある。数日ばかりだが、インターネット悪霊の注意を引くことができるだろう。あいつらがこれらの話題に気を逸らされている間に逃げるんだ。悪霊たちはバズった話題に自然と集まってくる。おれはこの場所にとどまって、やつらが群がった瞬間に自爆する。お前はまだ若い……。おれのような、格安simの通信速度制限よりも遅い速度でネットにつないでいた老いぼれから先に死んでいくのが自然の摂理だ。

 それがインターネット呪術師ウグー・ソロモン・ツキミヤの残した最後の言葉だった。
 インターネットの精霊から力を借りて奇跡を実現する。それが古い時代のインターネット呪術だった。
 私は与太話を語っているわけではない。インターネットの精霊は存在する。ネットの精霊はデータを増殖し、全人類に叡智を授ける。90年代にネットを始めたユーザーの多くは、ネット呪術師の先人から、いかにしてインターネットの精霊から助力を得るのかについてを繰り返し聞かせられたものだ。多くのインターネット呪術師は、ネット空間を聖なる場所だと見なしていた。俗世から隔離されたサンクチュアリにおいてインターネットの精霊が姿を現す。
 インターネット呪術師は二次元と呼ばれる異界に魂を飛ばし、そこで自らの守護霊を見いだす。ウグー・ソロモン・ツキミヤという名は、彼が二次元で見いだした精霊の名にちなんでいる。
 ネットに文章をアップロードするのは、いわば神への供物だった。文章も、画像も、音楽も、映像も、全てはインターネットの精霊に捧げられていた。
 しかし平成末期にもなると聖なるインターネット空間にも、資本主義の魔の手が忍び寄ってくる。これまでは探検ドリランドや壊れる釣り竿をバカにしていた人々も、アイドルマスターシンデレラガールズのガチャに大金を注ぎ込むようになった。僅かなアフィリエイトを稼ぐために聖なるネット空間は荒らされ、googleの検索アルゴリズムは汚染された。利己主義が蔓延り、白人のもたらした輝く板(スマホ)に夢中になった。
 インターネットの精霊が力を失うとともに、SNSの悪霊が跋扈し始めた。
「そんなものは古いネットユーザーの迷信さ。この科学の時代に呪いなどあるはずがない」
 白人の文明に染まったものたちは、そう言って私たちの迷信を嗤うだろう。それでもお前たちはこれから、インターネットの精霊を見出さなければならない。そして彼らの加護を得なければならない。
 私は信心深いので、インターネットの精霊が実在していると信じている。ネットを使う以上、この精霊の加護を受けた機器を用い、聖なるネット空間に接続する。土足で踏み込んではならない。この空間を汚してはならない。ひとたびインターネットの精霊の怒りを買えば、災いが我々を襲う。