マジカル労基法少女 第24話 『リビングデッド・オブ・和夫マルクス』


「あたいはマジカル労基法少女。労働基準法が存在するアリ労基界から、人間が暮らすナシ労基界で修行を積むことになったの。改めて言葉にしてみると、ナシ労基界という言葉の響きは絶望的ね。マジカル労基法は、人々の働きたくない、定時で家に帰ってさっさと寝たいという強い願いから生み出される奇跡の魔法!
なにわ金融道顔をしている青木雄二の妖精と一緒に、今日もナシ労基界で労働絡みのトラブルを解決しちゃうぞ!
でも一つ問題があって、マジカル労基法を使うには、働きたくないという強い想いの力が無ければいけないの。実家暮らしで無職のおねーちゃん(ブラック企業に数年間働いて、身体も心もぼろぼろになっている。二週間に一回、精神科に通院している)のおうちでお世話になりながら、ちまたにはびこるブラック企業を社会的に抹殺しちゃうよ! マジカル・マルクス・エンゲルス!(※呪文) 長時間残業を強いる企業を、SNSで炎上させちゃえ!」


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一方イギリス。カール・マルクスの遺骨が納められている墓地の前に、日本共産党・志位和夫の姿があった。退潮する日本リベラルに新たな力を吹き込み、安倍政権を退陣に追い込むためには偶像が必要だった。目的はただひとつ。カール・マルクスの死霊を呼び覚まし、この世界中で産声を上げつつあるミレニアム社会主義を活気づける。そして資本主義社会を潰し、共産主義社会を実現するのだ。それと、現在の資本主義社会をみたカール・マルクスが書いた資本論2を読んでみたいという下心もある。
唯物論と科学的社会主義が体にしみこんだ志位和夫は、魔術からは最も遠い場所にいる。しかし高度に発達した科学は魔法と区別がつかない。魂もしょせんは物質から成り立っている。ニュートンが物理学を生み出したのも、オカルト錬金術の下地があったからだ。東京工業大学を卒業したインテリ左翼の筆頭である志位和夫だ。科学死霊術によりカール・マルクスを地獄から呼び出すことなど造作もない。虐げられた99パーセントの怨嗟の声が、カール・マルクスの亡霊を呼び起こす! 魔術は完成した! メフィストフェレス的取引だ。
だが、志位和夫の身体はカール・マルクスの亡霊に乗っ取られてしまう。暗黒共産主義の力を手に入れた和夫マルクスは、過労死で死んだ労働者をゾンビとして地獄から呼び戻した。以前は共産主義という名の亡霊が歩いていたヨーロッパは、プロレタリア・ゾンビが跋扈するようになったのである。


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「私たちの活躍がブルーレイとDVDになったよ! 左翼の反貧困デモに出くわしたあたいは、その集会を虚無のようなまなざしで見つめるホームレスと、その存在にも気がつかない活動家の連中の姿を見たわ。彼らに手を差し伸べるのは左翼じゃなくて、生活保護費をピンハネする貧困ビジネス業者。一万円を片手にパチンコ店に走り込む生活保護受給者に、彼らを叩いてガス抜きをする年収二百万円以下の労働者……日本はいったいどーなっちゃうの? ふえ〜ん!! それ以外にもパナマ文書編とタックスヘイブン殴り込み編を完全収録!
初回特典は小林多喜二先生の『党生活者・後編』完全書き下ろしだよ!!」


理性を失った和夫マルクスは、世界中のポピュリズムを吸収しながら強大な力を獲得していた。はじめは労働者と国民の苦難軽減のために戦い始めた志位和夫も、安倍晋三と資本主義への憎悪に駆り立てられ、怒りを手放せなくなってしまった。
世界の左翼系魔法少女が一致団結して立ち向かわなければならない相手だったが、内ゲバで崩壊の兆しを見せるのが左翼魔法少女の避けられない宿命だった。リベラル魔法少女も社会民主主義魔法少女も立憲魔法少女もアナーキー魔法少女も共産主義魔法少女も社会主義魔法少女も、魔法少女デスゲームものの流行に乗っ取って血で血を洗う内ゲバを繰り広げていた。
彼を止められるのはマジカル労基法魔法少女しかいない。正気を失った和夫マルクスをなだめ、人間の心を取り戻すために青木雄二の妖精とともに決戦に挑む!
「目を覚まして、和夫マルクス! あなたが自民党を憎み、安倍政権の打倒を訴えるほど人々の心はリベラル派から離れていって、共産主義魔法の効力が弱くなってしまうわ! でも、それではだめ!
ねぇ、思い出して。昔は一緒になって蟹工船を沈めたり、アナーキスト魔法少女やバクーニンの妖精と夕日をバックに河原で決闘したりしていたわよね? 拘留所での初めてのお泊まり会の夜に、共産主義社会が訪れて人間らしい生活ができるようになった世界で、どんなことをしたいのかを、あなたは熱く語っていたわよね?
でもソビエト連邦が崩壊して社会主義という大きな物語が潰えてしまってから、私たちは変わってしまったわ。志位和夫は夢を語ることをやめて、赤旗日曜版の一面を政権批判と生活お役立ち情報で埋め尽くされるようになってしまった。怒りを振りかざして批判ばかりしていると言われても文句は言えないわ。でも、そんなのはあたいらが目指していた資本主義の次の世界ではないの。
あたいね、自分が左翼だと思っていたけれども、本当のことを言うとただ働きたくないだけだったの。ブルジョアジーの打倒も、安倍政権の崩壊も、人道主義も社会主義社会が完成した後に訪れるだろう真に人間的な社会がどうのというのも、本当はどうでもいいの。わたしは働きたくない! さっさと定時で帰って寝たい! 世界中から集められた働きたくないという気持ちが! 私のマジカル労基法に無限の力を与えてくれる!
志位和夫、私の命に代えてもあなたの目を覚まさせてあげる! マジカル・マルクス・エンゲルス!(※呪文) 志位和夫のほんとうの夢を、取り戻して!」
 つづく!


【コマーシャル】
「なんと、マジカル労基法少女印の労働時間管理手帳が出たよ! 日々の労働時間を書き込んで、残業代を取り返そう! 過労死の目安がわかる簡易チェックシートもついているよ!」


 次回予告!
マジカル労基法少女との戦いの果てに理性を取り戻した志位和夫は、自分がやったことの責任を取るために日本共産党を辞めて失踪した。段ボールのおうちで暮らしていた志位和夫の目に映るのは、アベノミクスによって家を失ったホームレスたちだった。
東京オリンピックの景観保護のために追い出されるホームレスたち。彼らを守れるのは志位和夫しかいなかったが、「自分にその資格があるのか?」と思い悩む。「苦しむ国民を守る盾になりたい!」その気持ちが彼の胸に燃え上がったときに、カール・マルクスの妖精が現れて志位和夫に新しい力を与える!
次回! マジカル労基法少女 第25話!
『たんじょう! あたらしい左翼系魔法少女!』
来週も絶対みてね! 約束だよ!