・陰府歴程篇(9)ヤク中☆フレンズ!


有名人の薬物乱用がニュースになるたびに、「ようこそ!あたらしいともだち!失敗してももういちどやり直そう!」という気持ちになる。これもおれがアルコールと処方薬を乱用していたときに先輩のヤク中から受け取ったものだ。おれは生きるのに耐えられなくなって睡眠薬をアルコールで流し込んで、病院に運ばれていた。そのあとにばつの悪い気持ちのままヤク中ミーティングに顔を出す。どのように責められるのか怯えているのだが、ヤク中の先輩たちは「生きてて良かったね!また一日ずつ、薬に頼らなくてもいい日々を重ねていこう!」と優しく接してくれる。これはいたたまれない。駄目な人間だと罵ってくれた方がマシなのだ。

これまでおれはミーティングに出席するヤク中どもを見下していた。シンナーやコカイン、覚醒剤、脱法ドラッグに比べれば、アルコールと処方薬でらりっているおれはよっぽど真人間だ。おれはおまえらみたいに落ちぶれちゃいねぇ。そう思って内心見下していたのだが、一番最初にリラプス(再び薬をやること)したのはおれだった。
誰が一番の屑かどうかを決めるのは無意味だ。どんな薬物に耽溺していたとしても、自分ではどうにもならなくなってしまったという点ではみんな平等だ。
ヤク中はみんなフレンズ!である。そういう心境なのでピエール瀧も田代まさしもアスカも、薬物を使ったやつはみんなともだち! 辛いけど一緒にがんばろう!……という気持ちになる。だがこの感覚は健常者社会では一般的な感覚では無いらしい。違法薬物をやったというスティグマの押された人間は、自分たちの同胞ではなくなる。はじめから存在しなかったかのように作品は回収され、映像は放送休止になる。
ペストに罹患した人間を広場で焼いて、自分たちに害悪が及ばないように焼却処分しているような感覚になった。不健全な部位を切り落とせば、私たちのコミュニティがこれ以上汚されることはない。そうやって患者は社会から切り離されて、寂しさを紛らわせる唯一のフレンズが薬物だけになってしまう。そうなってしまわないためにも、「おまえのフレンズは薬物じゃねえ!おれたちだ!」と言えるようなヤク中☆フレンズ社会の方が人間には優しいに違いない。