・政治発言ブロッカーが欲しい


政治発言ブロッカーが欲しいと以前から思っている。
どうも政治的発言を見聞きするときに、意図せぬ形で広告を差し挟まれたときと同じ脳の部位が反応する(ような気がする)。年収アップ! だれでもかんたん融資、原発ゼロ! 借金返済、汚い肌荒れを解消、イージス導入で日本を守ろう!……というような言葉にこっそり政治的言説を混ぜても違和感がない。
保守・リベラルに関係なく、同じような主張を繰り返し見せつけられるたびに、食傷気味になる。広告と同じチャネルを使って政治的言説が流通し始めた結果、最終的にわずらわしいスパムと同じレベルにまで堕してしまった。

日常の言葉と政治の言葉のあいだには深い断絶がある。普段使っている言葉の延長線上で、自分の言葉で喋れていないからどこかのまとめサイトからコピーアンドペーストしたような言説になってしまう。
政治的言説が嫌なのではなくて、日常の言葉から切り離されていることに違和感を覚える。さっきまで自分の言葉で日常の出来事を呟いていたはずなのに、いきなり特定政党の広告塔になってしまったかのように政治的主張を始める。どのような経緯で、その言説を支持するかに至ったのかという文脈が欠落していて、スパム広告のように機能してしまう。
SNSのアカウントを乗っ取られて、いきなりサングラスの広告を投稿し始めるという話を読んだことがある。政治的な価値観を表明するときに感じる違和感は、そのサングラスの広告に似ている。人格がハックされて、特定政党の広告塔になってしまったように感じる。
日常で使っている言葉とはかけ離れていて、そこだけが不自然に言葉が浮いてしまっている。個人が特定できない言葉、指紋の無い言説、顔の見えない思想と、政治的なものの相性は悪い。どれだけ正しいことでも、その言葉の担保となる肉体感覚が失われる。
以前に原発反対のデモに参加したときにがある。そのときにそばにいたおじさんが「原発反対!」と手垢にまみれた言葉で叫んでいたのだが、デモで歩いているときに「酪農をやっているんだけど、放射能で飼料が汚染されてしまって大損害を被った」という話を聞かせてもらった。
デモのコールは定型的だったけど、おじさんの経験と言葉は取り替えのきかない固有のものだった。誰しもがそういうオリジナルの経験と言葉を持っているはずなのだけど、それがSNSを通すと指紋や固有性が消え失せてしまう。
そのセキュリティホールにつけ込むように、Botやなりすましアカウントが影響力を強めて、他国政府によって選挙結果が影響されたりする。そういった種類の顔の見えない言葉を使っている。
日常で使っている言葉の延長線上で、自分の経験と皮膚感覚で、言葉を喋れるようにならないと、簡単にコピーアンドペーストの言説に飲み込まれてしまう。誰が語っても同じ言葉はスパム広告と区別がつかなくなって、見聞きするたびに生命力を奪われていくような感覚になる。
そんな種類の言葉であれば、政治発言ブロッカーで除去したほうがいい。