Twitter_VR


大衆の憎悪を刺激し、攻撃性を増幅させて諍いと争いをもたらす。それがSNSの本性であることに気がついたTwitter社は、ソーシャルVR技術を用いたTwitter_VRをリリースした。
既存のマイクロブログ以外に、利用者が互いに殺し合えるFPSゲーム機能が実装されている。決してかみ合わない議論にいらだちを募らせていたユーザーにとって、Twitter_VRのFPS機能は福音だった。
Twitter_VRは瞬く間に世界中のユーザーに広がり、政治クラスタごとに徒党を組み、銃で脳天に風穴を開けたり、敵対勢力を囲んでリンチしたり、爪を一枚ずつ剥がしていくのが日常の光景になった。斧で切断された首が壁に並べられることも多い。
Twitter社はユーザーにアサルトライフルやサブマシンガンなどの課金アイテムを売りつけることで業績を伸ばし、SNSは金と暴力が支配する暗黒の大地になった。気に入らない発言をしているアカウントはこの手で殺せばいい。それが鉄の掟となった。

VRヘッドセットを装着し、自作PCのハイエンドグラフィックボードをぶんまわす。Twitter_VRでは1フレームの遅延が命取りになりかねない。おれは憲法9条護憲クラスタ「平和の使者」に所属しており、ドラグノフ狙撃銃で改憲派ネット右翼を一匹ずつ血祭りに上げていた。白を基調としたゴシックロリータ風のドレスと、10歳ぐらいのかわいらしい少女のアバターだ。いつもは雪原フィールドに紛れてじっとしていることが多いが、見つけたらフォローしてくれると嬉しい。もちろんそれは掩護射撃などの意味合いで、フォローボタンを押して友達になるとかいった生ぬるい関係ではない。
護憲派は平和憲法の関係上いっさいの武力行使を放棄しており、Twitter_VRでは不利な立場に置かれている。彼らの代わりにこの手を血で染めるのが我々の役割だ。
三八式歩兵銃で武装した改憲クラスタは、護憲派のアジトを包囲して万歳突撃を繰り返す。単純だが物量にものを言わせた戦術は効率的で、これまでに何人もの同胞アカウントが削除された。いちど削除されると、レベル1からやり直しである。武闘派極左チーム「Twitterプロレタリア戦線」の行動を後方から支援しつつ、狙撃で敵の数を減らしていく。
それ以外にもライフル・イズ・ビューティフルを評価するために、わざわさC3部の話題を持ち出してきて死体蹴りする連中を、片っ端からヘッドショットで頭部ごと吹き飛ばしていた。
私の良心が「ヘッドショットなんてダメだ」と語りかけてくる。そうだよ、やっぱり憎悪は何も生まないのだ。良心は私に「即死では生ぬるい。もっと苦しめるような方法で、C3部を貶したことと、生まれてきたことを後悔させなければならない」と囁きかける。
Twitter_VRでアカウントを殺しても、次から次へとレベル1の新規ユーザーとして復活し始める。死なずにレベルを保ったままで戦闘を優位に進めるのが当初のセオリーだったが、現在では死亡上等でレベル1のまま物量による特攻を繰り返すのが流行している。新規アカウントでもプラスチック爆弾を身体に撒いて、敵陣に突撃すればいい。敵対するクラスタに所属して、拠点内で自爆するのも有効だ。
ずさんな戦略が繰り返されたことで、Twitter_VRは自分以外には誰一人として信頼できなくなった。アジトを放棄し、洞窟や森の中に隠れ、政治に興味の無い一般アカウントのふりをしつつ、背後からゲリラ戦を仕掛ける。
いつか争いが終わると、誰しもが思っていた。FPS機能で互いに殺し合えるようになれば、アカウントを削除する機能が備われば、気に入らないやつの口を封じて幸福な世界が訪れるはずだった。しかし、FPS機能が搭載されるよりも以前のTwitterよりも、邪悪で、苦しみに満ちた世界が築き上げられただけだった。