◆セルフ洗脳マシン


 フィルターバブルを体験するために政治的に偏ったアカウントをいくつか作成していた。片方は排外主義と憎悪あふれる極右twitter、もう片方は全国民が安倍政権の崩壊を願う極左twitter。現代社会の抱える病理の結晶体みたいなタイムラインが完成した。イスラム国ウォッチ用のアカウントは凍結された。

twitter社から「今日盛り上がっているツイート」についての情報が送られてくるのだが、イスラム国用アカウントの場合には基本的にグロ画像が送られてくる。イスラム国の子供が敵兵士の切断された首を見て喜んでいる画像、死体を市中引きずり回しにしている画像がリツイートされている。
 新しく作り上げたフィルターバブルを眺めながら、俺は思った。これはセルフ洗脳装置ではないのか。俺は正しいんだ。俺と同じ考えを持った人間はこんなにいる。だから俺が間違っているはずがないんだ! 俺は正しい! 間違っているのはお前たちの方だ! ……というタイプのセルフ洗脳である。
 情報を得ているのではなく、元々持っていた自分の信念を強化している。これは異質な他者の意見などではなくて、鏡に映し出された自分の心ではないのか。生まれたばかりの子猫は、鏡に映った自分の姿に気が付かない。他の猫だと思い込む。それと同じように、俺たちは自分の心をのぞき込んで、それを他者だと勘違いしていた。
 レジも給油もセルフサービスが広がる昨今、洗脳も自分自身で行うのは当然の流れだ。スクロールする度にある特定の意見に馴致していき、出展も根拠も分からない情報を脳味噌に刷り込んでいく。これが洗脳でなくしてなんだと言うのだ。ウイルス対策ソフトはフィッシング詐欺や有害なサイトを警告してくれるが、歪んだ情報は無検閲で脳味噌に入り込んでくる。常にメディアリテラシーを高めていられるほど、俺には集中力も持続性も無い。
 ネットの情報を閲覧するときは、鵜呑みにしないように気をつけるのがメディアリテラシーの常道だ。そもそもそのようなリテラシーを要求される時点で間違っていると言える。グラップラー刃牙の渋沢先生によれば、護身を完成させれば危ない場所には近づけなくなるという。つまりフェイクニュースの情報源に近付かなければいいのだ。