月歯町回覧板


・月歯町回覧板

満月の日になると歯が疼く経験をしたことはありますか? もしそうであれば、あなたの身体に月歯の名残があります。月歯とは月の引力によって常人よりも歯の成長が早くなる現象です。古来より月歯の生えた子供は災いをもたらすとされ、人間が暮らす場所とは異なった場所に遺棄されることが多々ありました。これが月歯町の由来です。
現在では月歯児という言葉は政治的に正しくない言葉とされ、場所によっては差別表現として扱われるケースもあります。より正しい表記は、月周性歯成長症(げっしゅうせいしせいちょうしょう)と呼ばれていますが、我々は月歯という言葉を使用しています。
月歯町に住んでいるのは月歯児ばかりではありません。ここ月歯町は月歯児を棄てるための山だった一方で、コミュニティから追われた人々を匿うための逃れの町(アジール)でもありました。人間の世界を追われた人々が、月歯町に難民として流れ着きます。それは人間ばかりとは限りません。
この月歯町回覧板は月歯町で暮らすために有益な情報が記されています。ゴミの出し方から公的支援の受け方、町内でおこわれる様々なイベントの告知など、日々の暮らしにお役立てください。
月歯町内会


・おっさん岩

月歯町の駅前にある通称・おっさん岩は、待ち合わせをするときに重宝するでしょう。 このおっさん岩は月歯町が存在する前にすでにこの場所に埋められていました。それは神話時代に大地を跋扈していた巨人族の末裔とも言われていますが、詳細は不明です。彼がどのような経緯で地中に埋められ、封印されたのかを様々な考古学者が研究していますが、いまだに統一した見解は得られていません。
おっさん岩は微動だにしませんが、死んでいるわけではありません。いつもはアンニュイなまなざしで虚空を見つめいてることが多いですが、もし彼と目が合ったあなたはラッキー☆。小さな幸せが訪れると言われています。


・月歯町ローカルアイドル、不幸ちゃん!

こんにちは!私は不幸ちゃんだよ!
不幸ちゃんはあなたよりも確実に不幸な境遇にいるよ。これは自分よりも幸せな人間には心を許せない人のためだけに、不幸であり続けるのが私の存在意義だからだよ。幸せな人間、恵まれている人間、才能のある人間は、ただ幸福であるという理由だけであなたを傷つける。だから、不幸ちゃんだけはぜったいにあなたを傷つけたくないから、いつまでも不幸にとどまっているんだ。
不幸ちゃんを見たときにあなたは、自分よりも不幸で、哀れで、恵まれない人間がいると知って安心したよね。自分一人が苦しんでいるわけでは無いと思える。不幸ちゃんはあなたの自尊心を傷つけないし、攻撃するわけじゃ無い。代わりにあなたは不幸ちゃんに優しくすることで、自分が善人だと思える。
不幸でかわいそう?そんなことないよ!そういう宿命の元に生まれたアイドルなんだ!
それじゃ私のテーマソングを聞いてね!
『しあわせなにんげんは、みんな死ね!』


・全き町

全き町は完全な人間のための町です。
この世界は不合理的な行動と数々の間違いによって数々の不幸が生み出されています。そのような問題を解決するために全き町が作られました。完全な人間だけが居住し、完全な人々だけに囲まれて、完全な世界を作り出す。あらゆるものが合理的に営まれれば、私たちは非効率的な慣習に悩まされることも無ければ、他者の過ちに足を引っ張られることも無くなります。
全き町に住民票を移すための条件はただ一つ。あなたが完全な人間であると言うことだけです。理性的で間違いを犯さず、欠点の無い有能な紳士淑女であれば、誰しもが全き町の住人になれます。
現在、全き町では住人を募集しております。全き町は健全な環境を保つために、不完全な人間を町外に追放しています。そのため年々過疎化が進み、全き町には定住者がいなくなってしまいました。数々の移住促進政策や、定住支援制度、完全な人間になるための講座などをご用意しております。
私は完全な人間として全き町で幸せに暮らすつもりでしたが、その資格を持ってはいませんでした。私は不完全な人間でしかなく、全き町の不法滞在者として追放処分になりました。


・存在するのはマナー違反? いまネットで話題の存在ハラスメントとは? マナー講師「存在しないことが一番です」

存在していることはマナー違反です。あなたは自分が存在していることが当たり前だと思っていますが、それはとても失礼な行為です。人間が存在するだけで地球環境に負荷をかけ、動植物を絶滅に追いやります。存在していること自体が社会にとって害悪では無いのか?という謙虚な姿勢が現代社会では求められるため、一人前の社会人にとっては「存在しないことがマナー」であると言えるでしょう。
私たちが存在することで他者に迷惑をかける存在ハラスメントが社会問題になっています。セクハラやパワハラ、モラハラも、すべては存在していることが原因です。
マナー違反にならないためには自らの存在を消失させることを心がけましょう。

xj月aw日(ほげ)『できる社会人のための非存在マナー教室・理論編』13:00~16:00 定員三十名 場所・月歯町水煮ビル三階302号室


・シュレーディンガー動物園

シュレーディンガー動物園へようこそ。園内の動物はすべて、金属箱の中で飼育されています。まず最初に二分の一で毒ガスが充満するボタンを押したあとは、他の動物園と変わりません。自動餌やり装置と清掃機械によって、生き残った動物たちは箱の中で快適に暮らしています。飼育員の手を煩わせることはありません。動物たちは自動機械によって適切に管理され、金属箱の中で繁殖を行います。
金属箱は防音で、鳴き声が聞こえることはありません。生きているのか死んでいるのか、外側からはわかりませんが、当園では少なくとも半分の動物たちが今もなお生きていると考えられています。
当園で最も人気のある動物はドードーとモア、ステラカイギュウとニホンウナギです。絶滅したと考えられている動物もシュレーディンガー動物園では今もなお生きながらえています。我々が金属箱を開けて中を確認しない限り、生きている状態と死んでいる状態が混じり合っています。当園において絶滅動物たちは0.5匹分は生きていると考えられるでしょう。この動物保護活動によって、希少な動物たちが絶滅の危機を免れているのです。
え? 人間という動物ですか? 確かにこの世界にはホモ・サピエンスという種類の動物が生息していましたが、残念ながら当園ではホモ・サピエンスの飼育は行っておりません。
ご期待に添えず、まことに申し訳ありません。


・鰻ヶ丘駅

ウナギはかつて存在した生物だったが、人間によって根絶やしにされた。土曜の丑の日と呼ばれる奇習があり、ウナギを食べることであらゆる万病が癒やされたのだと文献には書かれてある。その効用を得るために日本人はウナギを乱獲し、寿命を延ばすことで長寿大国になったと言われている。神々の飲料であるソーマ、神酒ハオマ、始皇帝が探し求めたと言われる不死の妙薬、そして万病を癒やすウナギだ。
私は不治の病である左折病の治療法を探すべく、長い旅を続けていた。左折病はその名の通り、左にしか曲がれなくなる奇病である。それは肉体的なことに限らない。思想的にも左に曲がってしまい、アナーキストの極左になってしまった。私が滞在したとある国では革命勢力の指導者になり、長らく続いた王政を打倒した。しかしそれは話の本筋ではないので省略する。いつか語る機会があれは、革命の志半ばにして倒れた同志たち一人一人の最期を語り伝えたいところだ。
私がたどり着いたのは鰻ヶ丘駅だった。聖なる生き物の名を冠したその場所は廃墟になっている。うなぎの養殖施設があると風の噂で聞いた。ここでなら、まだ鰻が残っているかも知れない。


・虚無川放浪日誌

虚無感を抱えて生きている人は、遅かれ早かれ虚無川にたどり着きます。ここの川辺には虚無感に身体を蝕まれた人たちが暮らしているのですが、住人の身体は虚無に蝕まれて穴だらけになっています。心の虚無感を放っておくと、それが身体にまで転移して存在を食らい尽くしていきます。最終的に、虚無川の住人は虚無に飲み込まれて消え去ってしまうのですが、その日が訪れるまでの時間には個人差があります。身体にドーナツのよう穴が開いていたり、ところどころが虫食いになっているという違いはありますが、虚無に蝕まれる程度は一目で理解できるでしょう。
一人の人間が完全な虚無になると、どこからともなく新しい虚無を抱えた人が川を訪れます。そして無人になったあばら屋に住み着いて、己の身体が完全に消え去るのを待ちます。
消え去ると言っても、彼らの残した痕跡のすべてが消えるわけではありません。彼らが生前に愛着を持っていたもの、読み残した本、書き残した言葉だけが虚無川に残り続けます。持ち主を失ってしまったものだけが虚無川には不法投棄されています。 これを私たちは「骨」と呼んでいます。虚無川で消え去ってしまった人間は跡形も無く虚無に飲み込まれてしまいます。その代わりに彼らの残したものを私たちは個人の「骨」として扱うようになりました。
骨は自由に扱って構いません。好きに持ち帰ったり、売り払って商売をしても咎められることはありません。下手をすると彼らの残した言葉やものに触れることで、虚無がひどくなる場合もあります。反対に、満ち足りた気持ちになって身体の虚無が小さくなることも、ごくまれにではありますが確認されています。
私たちは常に新しい住人が虚無川を訪れてくれるのを心待ちにしています。そのときには私はいなくなっているかも知れませんが、私の骨が残っているかも知れませんので、退屈しているのならば探してみてください。


・正しい狂気を学びましょう。【予防狂気のすすめ】

本当の狂気を知ることによって、私たちは偽りの狂気を難なく見分けることができるようになります。ワクチンを接種してインフルエンザを軽症にとどめるのと同じように、正しい狂気はあなたの身を守ります。予防狂気について不明な点がありましたら月歯町役場狂気課までお気軽にお尋ね下さい。

月歯町役場狂気課


・人間島

人間島。それが我々の目指す場所だ。人間と呼ばれる生き物が暮らしている島で、四方を海に囲まれている。人間は猜疑心の強い生き物で、人間では無いものを受け入れる寛容さを持ち合わせてはいない。同じ種属の人間でも、人間に棲む場所を追われるときもある。
人間島は経済的には恵まれていて、残飯を食べて命を食いつなぐこともできる。生まれ育った国で飢え死にするぐらいなら、人間島に移住するのも一つの選択肢だ。
密入国することも可能だが、その場合はすぐに化けの皮が剥がれて人間に殺されることになる。これが現在、人間島を騒がしている偽人間問題だった。祖国に強制送還されればいい方だ。下手をしたら見せしめのために殺されることになる。 そうならないために人間に擬態するための立ち振る舞いや言葉を学び、試験に合格したものには人間免許が交付される。
免許があるとないとでは、人間島での生活が大きく変わってくる。偽人間たちが商売を営んでいる店で働こうとしても、人間免許を取得していることが前提となる場合がほとんどだからだ。
私が人間免許を取るために試験を六回ほど受けなければならなかった。他の生き物はだいたい二、三回もあれば人間擬態試験に合格できるが、私は人間らしい行動を取ることができなかったので、予定していたよりも時間と予算がかかった。
教官には「人間として生きていくことを諦めた方がいい。仮に人間免許を取れても、お前は人間の生活には耐えられないだろう」と忠告してくれた。確かに彼の言い分はもっともだった。私が人間免許を取り、人間証明書を偽造してもらったとしても、人間島で生き残ることは難しかっただろう。
それでも私は人間に擬態して、人間島で暮らしたいと思った。もし今度の試験に落ちたら、密入国ブローカーに大金を払って、人間免許を偽造してもらうことも考えていたので、試験に通ったのは素直に嬉しかった。

・人間業
 人間業とは、人間のふりをして街を歩くだけの仕事だ。僕たちが一日のうちにすれ違う人間のうちの何割かは、人間業務に携わっている。モブと言えばわかりやすいかも知れない。業務内容というものは、特に熟練の業務が必要なわけではない。スーツや私服、作業着を着て、街を歩き回る。それが人間業の業務内容だった。
 街を歩いたときに、一人一人の人間を追跡するわけではない。彼らは自分たちと同じく、どこかに向かう途中だったり、誰かに会うために街を訪れている。普通の人ならば、そう考えるのが妥当だろう。
 しかし人間業を行っている者たちは、賑わいや人口密度を保つために業務時間内は街に留まって歩き続ける。言ってみれば、動く街路樹のような役割を果たす。  どうして人間業という奇妙な仕事があるのか。知らなくてもいいことは、知らないままでいる。それが賢明というものだ。


・満員電車融合人間メル川そげ次郎

満員電車の乗車率が一定を超えると、人間同士の境界線が曖昧になってふとした弾みで融合してしまう。東京では毎日数人程度の融合人間が満員電車によって生み出されるのだが、本人は自分が融合してしまったことには気がつかない。記憶も融合し、これまでにない人格が形成される。彼らは合成された記憶を持っているが、それはどこにも存在しないものだ。どこにもない町で生まれ、どこにもいない両親に育てられ、決して存在したことのない経験を記憶している。 私は、メル川そげ次郎は、小田急線で生まれた融合人間だった。何人かの人間が一度に融合してしまうのは、融合人間でも珍しいと言われている。
まず融合人間が気にしなければならないのは帰る家だ。融合人間が生まれただけ、原因不明の失踪者が生まれる。一説によれば、日本社会の失踪者のうち数割程度は融合人間になった可能性があるのだと言われている。
融合人間が誕生した場所には、原材料になった人間の身分証が落ちている場合が多いが、それがかつての自分だったのか思い出せない。見知らぬ他人の遺失品に思える。駅には紛失物が集まって、そこから自分たちの記憶を呼び起こすものを見つけ出そうとするが、その試みはうまくいかない。
時間が経てば再び分裂する可能性もあるが、一生融合したままの場合もある。私は、メル川そげ次郎は、漫画喫茶に一泊してからこれからの身の振り方を考えようと思った。それに『山田と奇妙なウナギましまろ』の最新刊も読みたかったが、そんな漫画はどこにもないと言われた。荒廃した地球でコールドスリープから目醒めた山田が、絶滅したウナギを探すために旅に出る異能バトル漫画で、タバコを吹かしながらスクーターで静岡を走るというストーリーを覚えていたが、これも記憶の融合によって生み出された架空の漫画なのだろう。
とにかくその日は何も考えたくなかったので、そのまま寝た。


・架空の迷い猫ポスターを貼り続ける。

ジョン蘇我峯崎(そがみねざき)は適当な駅で降りて、住んだことも無い町を散策し、人気の少ない路地の電柱に「架空の迷い猫」ポスターを貼ることを趣味にしている。SNSで拾った名前も知らない猫の画像を加工し、「迷い猫を探しています」というポスターを作成して、どこかの町に貼る。
これまでに何百匹の迷い猫ポスターを作っただろう。蘇我峯崎は覚えていない。この犯行が一人の手によるものだと気付かれてはいけない。そう信じている彼は、手書きのものやパソコンで作成したものなどの、多種多様なデザインで迷い猫ポスターを作る。
その町で暮らしている住人は皆、架空の迷い猫のポスターを観て不安に思うだろう。猫ちゃんは見つかったのだろうか、怪我をしてはいないだろうか、死んでいたりはしないだろうか? 電柱に貼られたポスターが雨でボロボロになり、剥がれかけるたびに、猫に対する心配は強度を増す。のどに刺さった魚の骨が抜けなくなるように、決して見つかることの無い架空の迷い猫の存在が彼らにかすかな不安を植え付けるのだ。


・新しい抗うつ剤を処方された。

精神科で新しい抗うつ剤「ロメロン」を処方される。いままでは脳の機能や神経物質の伝達を改善して鬱病を直そうとしてきたが、「意識それ自体を消去すれば鬱病に苦しめられずに済むのでは?」という逆転の発想によって画期的な新薬が生まれた。脳の意識や自我を生み出す部分を麻痺させ、服用中は哲学的ゾンビになる。一見すると普段とは何も変わっていないように見えるが、内的な自我や精神が一時的に失われている。それにより鬱状態の精神状態を哲学的ゾンビになってやり過ごそうというコンセプトである。
鬱病だけでは無くて、哲学的ゾンビ状態になれば労働しているときの意識も吹っ飛ばせる。ジョジョの奇妙な冒険でのボススタンド、キング・クリムゾンの攻撃を食らったときのような感覚だ。服用すると意識が消失していつの間にか10時間ぐらい経っているのだが、その間はいつも通り普通に行動している(らしい)。
副作用としては、人間に意識が存在しているのが煩わしくなり、薬が切れたときに猛烈に自殺したくなる点が上げられる。事実、哲学的ゾンビ状態だろうが自殺までは止められないので、起死念慮が強い患者には処方されなくなってきているし、労働の苦しみを和らげるために乱用されつつあるのが米国で社会問題になっている。
人間に意識や自我が必要かどうか確信が持てなくなるし、意識が戻ったらこのテキストが書き上がっていたりする。


・どうして意識があるの?

 既知のバグです。公式サイトより修正パッチをダウンロードして、意識を消してください。
 

・架空書物読書感想文

 ニコライ・イワーノフ・ヘイロウスキーのロシア文学『地下の蛆』を読む。これは自意識が肥大化した青年が近所に住んでいる10歳の少女を地下に拉致監禁して、五年もの歳月を掛けて育てていく犯罪小説だ。拉致監禁された少女は元から両親に虐待されていたため、暴力を振るわれないように主人公に対して機嫌を取るような媚びたしぐさで接する。ニンフェットで打算的な行動と、時折垣間見せる純粋な少女らしい姿に魅了された青年が、「ママ! ママ!」と泣き叫びながら少女の胸に顔を埋める場面は、地下文学史上屈指の名場面と言われている。
 血の繋がっていない資本主義者の妹が突如として現れる不条理小説『犬』、国家に迫害される同性愛の少女たちの破滅的な悲恋を描いた『指先』など、性のタブーに挑戦した作品を発表していたヘイロウスキーの評価は芳しいものではなく、反ソ的作家としてソビエト作家同盟から除名された。後にソビエト政府の表現規制に反発する作家たちによる地下出版雑誌『カチューシャ』の元でヘイロウスキーは『地下の蛆』を執筆し、後に完結したものを自己出版(サミズダート)として親しかった人々に配布した。

アナーキズム日記。

アナーキズムといえば、あたいが中高一貫の女学校に通っていたころの思い出を話す。その日は気持ちのいい日差しの初夏で、朝から電車に乗って学校にいくなんて馬鹿馬鹿しいと思った。それはあたいの友達であるるーちゃんも同じだった。あたいたちはいつも降りるはずの駅をスルーして、そのまま終着駅で降りて、海開きが始まる前の砂浜で遊んだり、寝転がって青空を見上げたりした。
それがあたいのアナーキストとしての目覚めだった。国家権力を潰すとか、あらゆる束縛から逃れるだとか、政府を転覆するだとか、あたいはアナーキズムがなんなのか知らない。ただ、いままで見たこともないぐらいに青空がきれいだったから、あたいたちは電車から降りなかった。それだけのはなしだ。
男たちは数多もの言葉を積み重ねて政治思想の伽藍を作り上げるけれども、それは灰色の言葉でしかない。あたいらには確固とした政治思想はないけれども、鳥の鳴き声、空の青さ、木々のざわめき、裸足で触れる湿った土の感触、誰にも知られずに咲く畦道の花……そういったものがあたいたちに全てを教えてくれる。昔はそうだった。 グーテンベルク印刷でこの世界が言葉で溢れる前までは、あたいたちは言葉からは遠かった。その代わりに、いままでよりももっと世界と近かった。
男たちは言葉しか知らない。男たちは言葉に囚われてしまったから、鳥の語りかける声も、森や星々の囁きも、花言葉を編んで詩にする術も忘れてしまった。
それは政治思想というたいそうなものではないの。でも、現実から乖離した言葉を使わずに、あたいらの言葉を使って、この世界のことを語っていく。そういう在り方があってもいいなって、思っただけの話。
男は言葉で世界を縛り付けようとするけれども、あたいらはその縄からすり抜けていく。誰もあたいたちを支配できない。それがあたいにとってのアナーキズムなの。


・だいたい1/365光年ぐらい離れた惑星にいる。

 だいたい地球から1/365光年ぐらい離れた惑星にいるので、光の速さでメッセージを送信しても届くまで一日ぐらいかかります。また、地球での一般的なコミュニケーションとはやや異なった方法や言語を用いているので、意思疎通に何かしらの不具合、言葉足らずによる誤解が発生する可能性があります。
 人間ではない生き物が必死になって人間の言語と人間の文化を学んで、人間の思考や心をエミュレーションしながら、試行錯誤でコンタクトを取ろうとしている。そのぐらいの感覚で交信してくれると助かります。
 ご不便をおかけしますがよろしくお願いいたします。私は元気です。


・Lineが国家権力に屈しないはずないだろ!

202*年。岩手民族解放戦線によるテロ事件で多数の死傷者が犠牲になった。その後、テロ犯人たちが連絡に使ったとされるメッセンジャーアプリを規制する世論が高まり、「メッセンジャーアプリ・SNS等監視法案」が圧倒的過半数で可決した。
「メッセンジャーアプリを提供する企業に対して、テロ組織の情報を開示するためのバックドアの導入を義務づける」とする法案は与野党から疑問視されることもなかった。日本のメッセンジャー市場で莫大なシェアを持つLineは全面的に協力する旨を発表した。当初、ユーザーのプライバシーが危惧されるなどの意見がごく一部から出されたが、「この法案に反対するやつは隠したいことがある犯罪者予備軍」といった意見が世論の大半を占めることになった。
別のメッセンジャーに乗り換えようにも、「他のツールを使っているのは、やましいことがある要注意人物だ」という空気ができあがり、セキュアなメッセンジャーを使っているだけで公安の監視対象になるような異常社会になった。
テロ等準備罪(共謀罪)との組み合わせで監視対象となるユーザーの範囲はなし崩し的に広がっていき、日本で行われるほとんどの通信が監視・検閲対象になり、表現の自由は萎縮してしまった。
あのとき「情報プライバシーを守ることは人権を守ることと同意義だ」と主張していれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。


・高所得者向け税金ガチャ

高所得者への累進課税や大企業への法人税増税は「頑張った人間への罰ゲーム」だと言われることが多いけれども、同意が無いままに無理矢理資産を奪われるから反感を買う。金が欲しければ課金への導線を作らなければならない。 おれはタダで税金をむしり取ろうとするような鬼畜では無い。納税者と政府の両方が幸せになるシステムを構築するのが、税制の基礎だ。
そこで税金ガチャである。射倖性の高いソーシャルゲームのガチャに月何万もつぎ込むユーザーは多い。時には借金をしてまで希少性の高いキャラやアイテムを手に入れる。この魔力を国家財政に応用し、税金でガチャを回せるようにする。
高所得者しか回せない上級国民プレミアムガチャと、大企業オンリーのガチャを用意し、「【☆☆☆☆☆】日本国民奉仕栄誉勲章【激レア】」などが手に入るようにする。
国会議員は募金の季節になるとスーツに赤い羽根をつける。募金をしていない吝嗇野郎だと周囲から思われたくない一心で、彼らは赤い羽根を手に入れる。
日本人の世間体を保ちたい気持ちと、集団から孤立する恐怖を刺激して高所得者を税ガチャに誘導し、「【☆☆☆☆☆】日本国民奉仕栄誉勲章【激レア】を手に入れていない高所得者は、税ガチャをする余裕も無い恥ずかしい人間である」という意識を煽っていく。
レアアイテムを手に入れたいという欲望は、いつしか「皆と同じものを自分も手に入れなければならない」という強迫観念へと変化する。そうすれば高所得者はメンツを保つためだけに税ガチャに大金を突っ込み、日本の財政は健全化するはずだ。
定期的に【☆☆☆☆☆☆☆】日本上級国民特別名誉勲章(期間限定版)【SSR】などの新アイテムを投入したり、ランダムで天皇握手券などを封入するなどのイベントをきめ細やかに実施していけば大丈夫なはずだ。


・お詫びと訂正

先日、このブログでの「早く家に帰って寝たい」発言が政治的扇動に当たるのでは無いのかというご指摘を受けました。資本主義社会に搾取されているという意識を国民に芽生えさせ、権利意識の啓蒙を促し、人々に反資本主義的な価値観を植え付ける社会主義プロパガンダであり、政治的中立性を損ねているのではないのかという誤解を与える可能性があるため、この発言は「十分な休息を取り、明日もお国のためにご奉公したい」と訂正させていただきます。不要な誤解を与えてしまい、誠に申し訳ありません。今後はこのような政治的に中立では無い発言が無いように気をつけていく所存です。


・えろまんが☆フォーチュンテラー

昔、おれはえろまんが☆フォーチュンテラーの技術を学んでいた。
これはコーヒーカップの底に残った痕で未来を占う技法のえろまんが版だ。性器モザイクの大きさや扱われている題材、和姦と強姦の比率、年齢分布などの要素から未来を占う方法だ。
えろまんがは社会の空気や政治情勢、未来への恐れ、無意識の表現規制などの影響を受ける。最先端のクールジャパンカルチャーであるえろまんがを正しく解読する術を身につければ、日本社会の未来を予知できるとするのがえろまんが☆フォーチュンテラーのコンセプトだ。
社会が不安定になれば性器モザイクが大きくなり、権力が強くなりすぎればらぶらぶ和姦が増える。このような傾向から、これから生まれるであろう未来の萌芽を感じ取るのだ。


・最近の陰謀論界隈は変わってしまった。

最近の陰謀論界隈は変わってしまった。いぜんは夢が溢れる陰謀論が多く、古代核戦争で滅びた先史超文明を想像して楽しんでいたものだった。陰謀論職人たちは互いに切磋琢磨し合い、一見すると関係の無いできごとをつなぎ合わせてひとつの壮大な陰謀論として成り立たせる技術を競い合っていた。現実に存在するものを材料にして、あるはずのないファンタジーを生み出す。それが陰謀論職人だったはずだ。
インターネットの普及で陰謀論界隈は堕落した。広告収入目当てに雑な陰謀論が量産されて、SNSにばらまかれるようになった。ほんらい、陰謀論とは作者と読者の高度なコミュニケーションが要求される。作者側が「読者のリテラシーなら、この程度の詭弁は見破ってくれるだろう」と信じることによって、陰謀論が成り立つ。そんなことあるはずがないとわかっているが、もしかしたらあるのかも知れない。世界経済を牛耳るユダヤ人秘密結社という言葉を聞いて、高鳴る胸の鼓動。そのときめきが陰謀論である。
何も知らない人間に東日本大震災人工地震説を吹聴したりするのは、陰謀論職人では無い。無知につけ込んだただの詐欺師だ。はじめは『天皇は宇宙人だった! 日本人洗脳統治計画の全容!』という特集に目を輝かせていた青少年が、リテラシーを身につけて私たちをいかさま野郎だと軽蔑するようになる。その成長が私たちにとって何よりもの喜びだ。そのうちの何人かが、初めて陰謀論に触れたときのときめきを忘れられずに陰謀論職人の道へと足を踏み入れる。そのときに求められるのは、理性と常識感覚だ。現実と空想の間できわどい綱渡りをするのが陰謀論職人である。
現実に偏りすぎれば「ロジカルに考えればありえること」になり、空想に偏重すれば「ただの絵空事」になってしまう。その中間にある「あるはずねえだろ!と思わず突っ込んでしまうが、心の底では存在していて欲しいもの」のラインを追求するのが、理想の陰謀論職人だ。サンタクロースや、家の隣に住んでいる幼なじみの美少女は国民的アイドル。そういう種類のファンタジーだ。
ちかごろの陰謀論職人たちは小銭を稼ぐためだけに質の悪い陰謀論をでっちあげている。これはGoogleやFacebookの策略であり、最終的に脳に小型のモバイルデバイスをインプラントして人類を操り、GAFA世界政府を建設するための布石に過ぎない。



・マネーワールドカップ

「どうして汗水垂らして稼いだ金を、貧乏人のためにつかわなければならないのだ」という疑問のアンサーとして創設された競技。それがマネーワールドカップである。
 自身の資産を無尽蔵につぎ込んで、人類発展や貧困解消のために尽力した者に金メダルが与えられる。勝者は究極の慈善家として歴史に名を刻まれるという名誉ある賞である。
 この競技は世界恐慌時のアメリカにまで遡る。金の亡者と罵られた資産家たちが、いかに自分が気前よく赤の他人のために金銭を浪費できるのかを競い合った。
 これはエンパイアステートビルの決闘と呼ばれ、マネーワールドカップの起源とされている。自身の全財産をビルの屋上からばらまく「アメイジンググレイス」や、失業者にパンやスープを無償で配る「キリストの奇跡」などの必殺技が舞い乱れた幻の決闘である。
 後に経済学者J.M.ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』に大きな影響を与えたと言われている。
 これが米ソ冷戦時代、資本主義対社会主義の軋轢の元で正式な競技となったのがマネーワールドカップだ。
 費やした資金の合計以外にも、どのような手段で金を使ったのかが問われる芸術点、競技者の人間性が評価される人道点などがある。金の力にものを言わせて貧困層に物資援助を行ったり財政援助をするよりも、同じ資金を使って貧困層の教育に投資しながら生活水準を向上させていく方が高得点が得られる。
「おおっと! 優勝候補の資産家が大企業への大幅増税と医療福祉制度の拡充策を打ち出した! これは大きな人道点の加算が予想されますね。これに対抗して現在二位のIT企業成金、タックスヘイブンを利用した節税を国際的に禁止する枠組みを提唱しました! これは痛い。今まで節税回避テクニックを駆使して、税金をびた一文たりとも支払わずに収益を伸ばしてきたIT企業です。これは翼をもがれたに等しい! この勝負でこれまでに自らの企業を支えてきたテクニックを全て吐き出して、王者の首を取りに行きます! これは目が離せない!」


・個人情報闇市

2020年代も後半になると、インターネットの大地は炎上によって焼き払われてしまった。ソーシャルネットワーク焼夷弾効果と呼ばれる現象により、どのような発言をしても炎上を免れることが事実上不可能になってしまった。
保守的であれば左側に殴られ、リベラル的な価値観を表明すれば右から罵られる。中立を保てば「日和見主義者め!」と責められる。リルリルフェアリルに言及すれば「貴様は失われたジュエルペットが悲しいとは思わないのか?」と難癖をつけられる。例えるならば、何万人もの人間が参加する麻雀である。どの牌を切っても誰かにとってのロン牌になる。インターネット末期戦においては、口にした言葉が片っ端から炎上していくような地獄絵図となり、人々は長い沈黙を強いられた。終戦直前には、疑心暗鬼に陥った人々が「炎上させられる前に、他の誰かを炎上させる!」とばかりに火をつけた。「どうして生きているんですか? 死んでいる人に対して不謹慎だとは思わないんですか?」というクソリプの砲火が全方位から飛んでくる。炎上すれば個人情報が暴かれ、これまでに積み重ねたものをすべてうしなう。そんな有様だった。
炎上から個人情報が掘り返されることを恐れた我々は、自らの個人情報を投げ捨てざるを得なかった。何をどうしても個人情報を漏洩させられる末期インターネットにおいては、自分自身を消し去る以外に選択肢は無かったのである。私たちが個人で無くなれば、個人情報は漏洩しようがない。そのような理由で、私たちは個人であることを放棄した。
そして、ようやく終戦を迎えたのである。

焼け野原になったtwitterの跡地に闇市が開かれる。
私は失われた自分の記憶を取り戻すために、個人情報闇市に赴いた。ガラの悪いgoogle社の男が「日本人の個人情報1万人分! ここでしか手に入らない活きのいいデータだよ!」と大声を張り上げて、個人情報を売っている。日本とはかつては繁栄を謳歌していた極東の島国だったが、すでに存在してはいない。
闇市では個人情報を喪失して、誰でも無くなった者たちで溢れかえっていた。私たちにとって最も優先順位が高い個人情報は名前とアイコンだ。実写アイコンが望ましいが、手に入れるのは二十万Gsが必要だった。個人情報闇市で流通している貨幣は検索履歴である。googleの検索欄に入力された情報が、1Google検索。略して1Gsだ。
私は個人情報闇市で買った情報をもとに、新しい自己を手に入れた。中には闇市に陳列される膨大な個人情報から、失ってしまった過去を探し出そうとするものたちもいた。instagramに上げた食べ物の写真、twitterの日常ポスト、それらを眺めて過去を取り戻そうとするが、その試みのほとんどは徒労に終わる。
私は漏洩した個人情報の残骸を組み合わせて、新しい私を手に入れた。それらの情報は矛盾しているが文句は言えない。生年月日よりも前に私は高校に進学していたり、住所が埼玉県世田谷区になっていたりする。私の個人情報が漏洩してしまうために、詳しく明かすことができないのが残念だ。

・ダンジョン&見知らぬおっさんズ

 ダンジョン&見知らぬおっさんズのソシャゲー版をやっている。
 おっさんを集めてダンジョンを攻略するという、美少女ゲームに反旗を翻したソシャゲ界の北朝鮮だ。
 序盤はコモンドロップのメタボリック徳田の使い勝手がいい。前線に置いて脂肪補正でダメージを軽減してくれるし、ダンジョン下層では食料になるので無駄になるところが無い。
今のパーティ構成はメタボリック徳田、バーサーカーよしとも、赤羽茂(窃盗前科)、野田課長、ママン・ペルー(MtF)だ。ママン・ペルーが性別不詳なのでおっさんなのかどうかもわからない。
 野田課長はコンシューマー版に比べて弱体化しているが、それでもエコノミックアニマルと呼ばれるだけの性能はある。企業戦士というジョブそのものが優遇されているせいもあるが、野田課長はパワハラもモラハラもしないナイスな上司なのでパーティの士気が上がる。

・前科者おっさんこれくしょん

 前科者のおっさんを集めて、難攻不落なミッションに挑むブラウザゲームとかやりたい。
 おっさんにはそれぞれ前科があり、麻薬栽培、結婚詐欺、爆発物製造、スピード違反などのスキルを持つ。前科スキルを組み合わせてミッションに挑む特攻野郎Aチーム的な世界観で、「よっしゃ! 刑期千年オーバーのSRが出たぞ!」「こっちは連続猟奇殺人鬼だ!」みたいなやりとりがある。属性は肉体派、知能犯、愉快犯。
 艦隊これくしょんやアイドルマスターシンデレラガールズをプレイしながら、「女の子は可愛さが武器になる。だとしたらおっさんに残された最後の取り柄は何だ?」と自問していたら、いつの間にか特攻野郎Aチームにたどり着いていた。

・俺の心の中のクソ映画、ゾンビドッグ。

 ペットロスで途方に暮れる青年と、ゾンビ犬として蘇るヨークシャテリアのゾンビコメディ。開始一分でクソ映画だって分かる作りの低予算ゾンビ映画なのだが、ペットものの文脈も踏襲していることで謎の感動が襲いかかる。生きていた頃のペットとの思い出、離別の苦しみ、ペットロス、そしてゾンビ犬として復活したペットとの感動の再会。これをたった十分程度で構成する脚本と演出のテンポがやたらといい。
 その後も襲いかかる米国保健所のゾンビ犬ハンターと、ゾンビ犬愛好家たちの集いによる手に汗握るアクション、飼い主をかばって浄化されるゾンビ犬たち、犬が死ぬ度に挿入される断片的な思い出(五歳の誕生日プレゼントに家に犬がやってきた!とか、捨て犬だったとかそういうやつ)、ゾンビ犬ハンターのねーちゃんのケツ。そして訪れる本当の別れ……。主人公の犬が復活した動機が、寂しそうな飼い主の力になりたかったという健気な理由だったり、もう勢いと演出の切れ味しか無いハイスピードな95分。


・魚類ファースト対二足歩行党

政治の話をする。現時点での地球に存在する政党を大まかに分けると、昆虫のための選択肢、魚類ファースト、自由二足歩行党の三つである。私は魚類ファーストの過激な支持者であり、我々を乱獲する二足歩行陸上生物に対する差別主義者であり、魚類優越主義者だった。
二十一世紀中盤。過度な海洋資源の乱獲に心を痛めた人々と魚類たちによって、魚類ファーストの前身である「魚の党」が創設された。これは人類と魚類の共存を掲げた穏健派環境政党だったが、日本人が平和条約を一方的に破棄してうなぎを食べてしまったことにより、過激派が勢力を増した。人間と魚の共存を目指す穏健路線の魚の党とは別に、人類を劣等種としてこの地球から消し去ろうとする極魚(きょくぎょ、far-fish)運動が活発化した。そして暴力も辞さない過激な魚(うお)イズム政党である魚類ファーストが誕生したのだった。
人類が垂れ流した汚染物質を蓄積した魚が人間世界の食卓に紛れ込み、食中毒を起こすというケミカルテロリズムが蔓延し、スシはアンチフィシュライト(反魚権)運動のシンボルとなった。スシを食べるという行為は魚類社会正義に反し、SNSにスシの写真を投稿するものは差別主義者としてアカウントが削除される。
スシ・レストランでは社会的悪の象徴となったスシが提供される。この世界でも数少ないアンダーグラウンド料理店である。
スシとは何か。拉致監禁され、切り刻まれた魚の肉を、ライスの上に乗せる料理である。これがいかに非魚道的な食べ物であるのかは、薄く切った人肉をパンで挟んで食べる料理の魚版を想像してもらったほうが早いだろう。古来より奇習に染まった日本人は、魚を食べると賢くなると信じていた。当時はアフリカで、アルビノの脳を食べるとエイズが直ると信じられていた迷妄の時代であり、魚類もまた呪術的な迷信の犠牲になっていた。
人類によるうなぎの絶滅計画が進められる中で、うなぎたちは手をこまねいているだけではなかった。うなぎという種が存続するためには、人間による漁獲量制限に頼るだけでは不十分だ。うなぎ自身の手でうなぎを守らなければならない。それが民間防衛の基礎だ。武装せずにうなぎ社会を人類の手から守れると考えるのは理想論であり、ドードーやステラカイギュウの二の舞いになるだけだ。
そして世界中のうなぎ社会は立ち上がった。交配を続け、バイオテクノロジーを活用し、自主的な品種改良に努めた。漁船に対抗できるように巨大化し、厚い外殻で身体を覆った。現在ではシーサーペントうなぎやリヴァイアサンうなぎという、空母を撃沈しうるほどの打撃力を備えたうなぎが世界中の海で散見されるようになり、人類はうなぎを食べることが不可能になった。一説によればネス湖のネッシーは巨大化したウナギであるという。適切な環境であればウナギは巨大化する可能性があるのだ。
うなぎの進化により人類の活動領域は縮小した。輸送船が破壊されるために経済活動は停滞し、地球温暖化による海面上昇によってすみかを奪われつつあった。これまで争いを続けていた人類は国境を撤廃し、二足歩行党による世界政府が設立された。残された資源と人口を一つに束ねること以外に、魚類社会と戦う術は残されていなかったのだ。人間はあくまで霊長類の長であろうとした。二足歩行を始めたために動物には戻れない。陸に上がったせいで海にも戻れない。たとえその先に絶滅が待っていようとも、このまま二足歩行の奇形進化した猿として生きなければならないのだ。
終焉の危機を迎えた人類と武装うなぎたちとの最終決戦が始まる……!


・Google合理思考

Google合理思考では認知が歪んでいる人類に代わり、Googleのディープラーニング人工知能が合理的な判断を下します。作業支援用ウェアラブルスーツを装着して肉体への負担を減らすのと同様に、代替思考エンジンを用いることで、人間の不確かな理性に頼ることのない、より冷静かつ合理的な判断を行えるようになります。

Google合理思考をインストールしてみたけれどもこれはやばい。初めて眼鏡をかけたときに「世界はこんな風にくっきり見えるものなのか!」と驚いたことがあるが、「合理的な思考で世界を眺めるのはこんな感じなのか!」というカルチャーショックを受けた。今までしらふだとばかり思っていたが、ビール二、三本空けた状態で思考していたようなものだ。ただGoogle合理思考の無料版は広告が消せないので、思考中にたびたび企業広告が挟まれて、それを自分の思考だと勘違いしそうになる。それに自分の思考ログがGoogleに送信されているのも気持ちがいいものではない。

・急なフル勃起に!ペニスシボムン錠、新発売!

男性の性欲が社会的に規制されないのか不思議に思っている。
テレビのCMなどで「満員電車内での急なフル勃起! 新しいフニャチン有効成分が強制的にあなたのペニスを鎮めさせ、性欲を抑えます! ペニスシボムン錠!新発売!」みたいな薬品は販売されない。バイアグラは速攻で認可されるのに、あまりおちんちんを小さくすることには関心が無いように思える。逆に奔放な性欲が推奨されているように感じられる。
だいたいの社会問題と犯罪は、男に抗男性ホルモン剤を摂取させてふにゃちん状態にさせれば解決すると思っている。強姦犯罪が不起訴になったり、 アルコールに睡眠薬が混ぜられてレイプされたり、#Metooが政治イシューになったり、恋愛感情をこじらせてストーカー殺人が起きるのもぜんぶ、社会的に規制されていない男性の性欲が悪い。地球の人口が幾何級数的に増えて資源を食らい尽くすのも男の性欲が悪い。ニコチンやアルコールと一緒に規制するべきだし、思春期になったら定期的にペニスシボムン錠を服用した方がいい。女性も男性と酒を飲むときには、こっそりペニスシボムン顆粒を酒に混ぜるぐらいの警戒心があってしかるべきだ。

男性の性欲を野放しにしたMetoo運動では生ぬるい。その過激思想は後に#NOMOREPENIS という政治運動に発展していき、おちんちんを捨て去ることがリベラル派の流行になる。女性ホルモンを注射してかわいいおんなのこになるのが二十一世紀中盤の政治情勢だ。勃起と性欲をコントロールしない男性は社会マナーの無い犯罪者予備軍として扱わるようになる。我々が今生きている現代社会は、性欲が規制されない野蛮な時代だと子供たちに教えられるに違いない。
かつて奴隷制を支持する南部と奴隷解放を訴える北部が対立し、アメリカ南北戦争へと発展した。二十二世紀初頭にはペニスに固執する旧勢力と、ちんちんからの解放を訴える勢力との間で第三次世界大戦が引き起こされるはずだ。


・真咲・ガイヤールのことを考えながら適当に書いた文章。

真咲・ガイヤール at DuckDuckGo(※注・18禁エロゲーのキャラ)

・不敬文章、クローン天皇編。
もし昭和天皇がGHQに処刑されていたらどうなっていたのかという歴史的IFをよく考えるのだが、最近は「大日本帝国の残党が精神的支柱を復活させるために、ヒロヒトのDNAを強奪してクローン天皇を誕生させるのでは?」という妄想をしている。
マンモスのクローン化に本腰 - ロシア・ビヨンド
絶滅したマンモスを復活させるためにDNAの保存状態がいい細胞を取り出し、クローンとかES細胞とかその他諸々の技術を用いて胚を発生させて、代理母に出産させる。この方法であれば日本の科学技術も発展するし、万世一系的にもおっけーなのではないのかというようなことを考えていた。
様々なネオ日帝(ネオナチっぽい感じ)がそれぞれの組織でクローン天皇を作り出し、血みどろの戦いを繰り広げているんじゃねーのかなって気になってきたし、天皇が単性生殖できるようになれば後継者問題も解決するのではないのかとも思っているし、中国でゲノム編集ベイビーが生まれたことを踏まえて、積極的に遺伝子強化天皇をリリースしていくことで一般臣民と差別化を図っていった方がよい。
ユヴァル・ノア・ハラリ の『ホモ・デウス』によれば、近未来社会では自らの遺伝子を選択的に改良できる富裕層とそれ以外の人間の間で格差が広がっていくという未来予測が語られる。SFの話では無くて、ある特定の病気を引き起こす原因となるゲノムを除去するのであればすでに技術的に可能だ。
それはおいといても、遺伝子強化天皇ってフレーズにはロマンがあるよね。


・女子小学生の犬として飼われるシリーズ最新版。

※俺の心の中には成人男性が女子小学生の犬として飼われる魔法のパラダイスがあり、だいたいの犬人間が去勢されている。性欲は除去され、女子小学生に純粋な忠誠心を向けるのだ。おれが犬だ! わんわん!!

非正規雇用のまま年収が200万を超えたことがないまま30代に突入してしまったジョルヌ青元は、人生を逆転するべく一部上場企業の令嬢(11歳)を誘拐した。目的は身代金の請求である。自分を非正規雇用に貶めた連中にとってはたいした金額ではない。
社長令嬢はジョルヌ青元に誘拐されたあとに彼の顔を見て、「あなた、ワン太郎なの? ワン太郎の生まれ変わりなの?」と尋ねた。余談ではあるがジョルヌ青元の顔は犬に似ている。ワン太郎とは社長令嬢が8歳の時まで飼っていたヨークシャテリアの犬だ。寿命で大往生を遂げたワン太郎だったが、友達のいなかった社長令嬢にとっては唯一の友達がいぬのワン太郎だったのである。
そんなことをジョルヌ青元が知る由もない。が、彼は緊張のあまり、自分でも予想外の言葉を発してしまった。
「僕はワン太郎だ、わん!」

・「忠イケメン!犬人間パラダイス!」

この犬人間シリーズも主演俳優をジャニーズJr.やイケメン俳優、いぶし銀のおっさんを大量に投入して、「忠イケメン!犬人間パラダイス!」とかに改名をすればいい。女の子に首輪を付ければ即刻クレームが付いて激しく糾弾されるが、イケメンに首輪が付けられていてもなんとなくかっこいいからで許容される。それがこの時代だ。
想像してくれ。おまえの大好きなイケメン俳優が、忠誠を尽くす忠犬ハチ公のような存在になる。誘拐犯にさらわれても命懸けで助けにくるし、防弾ジャケット代わりに身体で銃撃を防いでくれる。おまえのことだけを一途に考えるのが犬人間だからだ。むろん去勢されているので性欲は無いし、見返りも求めない。ただご主人様の幸せだけを望んでいるイケメン犬人間だ。
幼い頃から専用の犬人間養成施設で育てられた血統書付きの犬人間と、人間社会から脱落した野良犬人間に分かれる。格差社会の生き血をすすりながら豪勢な暮らしをおくる上流階級の子息子女には、ボディーガード兼家庭教師役として犬人間が与えられるのが習わしだ。
時代は超格差社会日本。富裕層のみが出入りできる壁で囲われた治安のいい都市と、その周辺に広がるスラム街に分かれている。許可無く壁越えをしようとすると射殺されても文句は言えない。そういう社会だ。
スラム街には富裕層に復讐を企てようとする野良犬人間たちが群れて暮らしている。彼らもまたガラの悪いイケメンが勢揃いだ。野良犬人間には人権がないので、休日になると富裕層階級による犬人間狩りが行われる。
主人公は犬人間狩りに巻き込まれて致命傷を負うものの、ある富裕層の令嬢に救われる。助けられた恩義と、人間への憎悪が入り交じりながらも、元野良の犬人間として自分を助けてくれた令嬢に忠誠を尽くすというのが物語の骨子だ。


・声優森

 この世界のどこかに声優森と呼ばれる場所があり、そこでは野生の水瀬いのりボイスや能登ボイスが反響し続けている。我々は狩人として声優ボイスを捕まえるのだが、一人前と認められるためには厳しい修練が求められる。宿したいキャラクターのコスプレをして、心を空にして声優森で瞑想をする。自我をすべて消し去ったときに、警戒心を失った声優ボイスが近寄ってきて我々の体内に宿る。その後に人里に降り、アフレコ収録スタジオに向かう。そして我々は自らの口から声優ボイスを解き放ち、それらはアニメキャラという新しい依り代を得るのだ。
声優森の場所は人間からは隠し通されなければならない。邪悪な人間の目に触れれば、声優ボイスが乱獲されることは目に見えているからだ。多くの人々は、人間の声優がアニメキャラに声を吹き込んでいると信じているが、それは真実ではない。秘密を守り通すためには嘘も必要なのだ。


・あたまがおかしい。

ときどき頭がおかしくなるときがあるとはいったが、実際には気が狂っている場合の方が多い。一年の間に389日ぐらいは気が狂っているのだが、そのうち15日ぐらいは正気を取り戻すことがある。この文章はかろうじて正気を取り戻しているときに書かれている。(と思い込んでいる)
気が狂うにもさまざまな症状がある。支離滅裂な言葉をつなぎ合わせるのは狂気の中でも軽度なものだ。やっかいなのは論理的に整合性がとれていて、一見すると周囲からは正常に見えるのだが、冷静に分析してみるとやっぱり気が狂っているという事例だ。この種の狂気に対して我々は免疫を持っていない。わかりやすい狂気ばかりに目を奪われていると、後者のような狂気を見分けられなくなる。
気が狂うのは仕方が無い。問題はどのようにして頭がおかしくなるかだ。どんなタイプのきちがいになりたいのかという明確なビジョンがなければ、おのれの欲望に突き動かされて他者を傷つけるだけの有害なきちがいにしかなれない。
自分を幼女だと思い込んで、小鳥さんたちとお話ししたいと夢見ているような、穏やかで人畜無害な狂人に私はなりたい。

・狂気民主主義的アプローチ

 理性的アプローチが意味をなさないのだとしたら、残されているのは狂気しかない。理性の神アポロンが潰えるのなら、狂気の神バッカスの出番だ。近代合理主義を基盤に形成された民主主義社会は終わり、狂気民主主義的アプローの時代がやってくる。
 権威主義的アプローチは、まっとうで良識的な人間に狙いを定めて無力感を植え付けることを目的としている。しかし狂人に対しては何の対策も練っていない。普通の犬ならば飼い慣らせるが、狂犬である場合は話が異なる。
 気候変動運動家のグレタ・トゥンベリ氏が権力者によって疎まれるのも、空気を読まずに客観的なデータを積み重ねて、まっとうな言論を突きつけてくるだけではない。アスペルガー症候群気質から生まれるある種の狂戦士(バーサーカー)体質の萌芽を感じる。
 しかし狂気民主主義を成り立たせるために必要な善良な狂気を養うためには、どのような種類の狂気が求められるのかはいまだに未知数だ。


『日本有害図書・漫画 表現基準パンフレット』

よく有害図書や漫画での不健全な表現を禁止するべきだという声があるけれども、個々人の曖昧な感覚で健全か不健全かを決めるのではなくて、客観的な指標を作るべきだと思うんですよね。絶対音感の持ち主でも無い限り、楽器を調律するためにはチューナーや音叉を必要とする。人間の聴覚は体調や風邪薬の服用で簡単に聞こえている音程がずれてしまうほど曖昧なものだ。
不健全図書を判断するための客観的な基準を制定し、この内容は禁止、これは不健全、これは犯罪性がある。青少年に悪影響を及ぼす……という内容を網羅したリストを作るべきだと思うんです。もちろん膨大なリストになるはずなので、閲覧しやすいように一冊にまとめて、誰でも理解できるように漫画形式にする。
ここまでくればおわかりのとおり、有害図書指定委員会の発行した『日本有害図書・漫画 表現基準パンフレット』は実用性の高い書物になり、重版するたびに即日完売するベストセラーえろまんがになった。レビューサイトでは黒の書、人類の邪悪な部分が凝縮されている、背徳感を刺激するなどのコメントが並び、『日本有害図書・漫画 表現基準パンフレット』自体が有害図書になった。悪をこの世界から消し去ろうとして、よりまがまがしい悪が生まれる。それが人類の業だ。