きららの師はキモオタから、「現実が在るとはどういう意味でしょうか?」と問い求められたとき、しばらく黙って座り、ハロー!きんいろモザイクを鑑賞していた。キモオタは大いに讃歎(さんたん)して、「師のお慈悲によって私の迷いの雲は晴れ、悟りの世界に導いていただきました」と言って、礼拝して立ち去った。
◆解説◆
たのしいインターネット
みんなはスマートフォンの基本操作は覚えたかな? これからおれが語るのは、このインターネット世界を生き延びるための技術だ。いま、おまえたちはネギを背負ったカモ以上に食い物にされやすい状態にある。それをまずは認識することだ。これまでにも何人もの人間が、インターネットの養分になった。僅かな快楽と引き替えに、時間も金も、魂も人生も惜しみなく奪われるだけの存在になる。
能登麻美子改憲草案について
おれも改憲草案を考えたから、国会で議論してくれ。
トップダウン方式で改憲するのではなく、ボトムアップで民衆の知恵を積み上げていくが民主主義というものだ。「護憲派は反対ばかりで対案を出さない!」というのが保守派の言い分だが、その批判には一理ある。自分自身の手で、新しい価値を築き上げていくのが国民主権だ。努力を放棄して、反対と叫び続けているだけでは国民の義務を果たしているとは言えない。よっておれは自分自身の手で改憲草案を作り上げることにした。
それが「日本国憲法お姉ちゃんが、あなたの人権を守るよ☆ボイス・バイノーラル(CV能登麻美子)」だ。
電子メールおっさんの死
十年ほど前には「電子メールも満足に扱えずに、未だにFAXで文章のやりとりをしている生産性の低いおっさんどもは淘汰されてしかるべきだ」と何の臆面も無く考えていたのである。
10代後半の若者から「LINEが使えずに、未だに電子メールでファイルを添付しているようなロートルは朽ち果てて当たり前だ」と思われていても仕方がない。
俺たちも「老害!」と叫び、この手でFAX業務連絡おっさんどもを絶滅に追い込んできたんだ。「老害!」と呼ばれて、潔く殺されよう……。みっともなく命乞いをしてはならない……。それが俺たちが殺したFAX業務連絡おっさんに対するせめてものはなむけだ。
アイドル政治パラダイム!
選挙報道を見ているときに、おれは世界の真実にたどり着いてしまった。
政治家がマイクを握り、民衆が集まる。その姿はアイドルと同じではないのか。
社会を動かすのは熱狂である。ファナティックな情熱を生み出すという点でアイドルの右に出るものはいない。周知の通り、日本社会では政治のことを古来より「まつりごと」と呼んできた。すなわちフェスティバルである。政治の本質がお祭りであり、天皇はアイドルであり、臣民はファンである。その根本的な政治原理を日本人は肌で理解している。逆に言うと理性的な対話を積み重ねていくことで価値観をすりあわせていく民主主義とは対極の位置にいる。
陰謀論職人・立志編
陰謀論職人に拾われてから、瞬く間に五年の歳月が経った。
僕の両親は陰謀論者によって殺された。日本社畜しぐさなど存在しないと主張していた両親は、『古き良き日本社畜しぐさを現代に伝える会』の人間に葬り去られた。日本社畜しぐさは江戸しぐさと長時間労働その他諸々をつなぎ合わせて生み出されたが、バブル崩壊後の失われた二十年の間に消失してしまったものだと言われている。
天涯孤独の身になった僕は、年老いた陰謀論職人の元で陰謀論の作り方を学んでいた。これも、僕の両親を殺した陰謀論者に復讐するためである。
萌えアニメのひとたちが全員野郎になった世界の話。
現代オタク向けコンテンツの登場人物が、全員男になった世界に私は迷い込んだ。 コンビニエンスストアの成人コーナーに並んでいるのは快楽天でも無ければペンギンクラブ山賊版でもない。ハードコアBL漫画雑誌だ。この光景を目の当たりにすれば、誰でも信じざるを得ないだろう。私は性的な価値観が真逆になった世界に足を踏み入れていたのだ。
乱数神礼賛
◆東風戦 東一局 擬似乱数神礼賛
天鳳で親リーチメンゼン三暗刻ダブ東18000点をツモ上がりしたときに、急に麻雀熱が冷めた。その手はリーチをかけずにダマテンでいいのではと思ったが、ノリと気分でリーチをかける人間なのだ。
僕は平日の昼間から、確率という名の神へと祈りを捧げる神聖な遊戯を行っていたわけではあるが、僕が確率の神だと思っていたものは、人間が作り上げた擬似乱数生成アルゴリズムに過ぎなかった。
マジカルマテリアル黙示録 私のパパはバンダイに殺された。
私のパパはバンダイに殺された。
「ピンクリボンつきフリルシャツ(アピールポイント200)」。始めてパパと一緒にイオンに行って、アイカツをプレイしたときに手に入れた思い出のカード。レアカードではなかったけれど、パパとの思い出が詰まった数少ない遺品だった。
パパは女児向けアニメの販売戦略に惑わされて、私を喜ばせるために必死になって玩具を手に入れようとした。パパと家族の絆は薄れ、私は寂しさを紛らわせるためにアイカツに没頭した。パパは私を喜ばせようとしてレアカードやアイカツドンジャラを買ってくれたけど、本当に欲しかったのはレアカードでも無ければ、高価な玩具でもない。
でもパパは分かってくれなかった。
お金では買えないレアカードや玩具を手に入れるためにカジノ特区へと足を踏み入れ、危険なギャンブルに身をやつしては、勝利の対価としてレアカードやバンダイの玩具を持って帰ってきた。
その時の私はまだ、パパが真っ当な手段で働いているとばかり思っていた。だけど私が七歳のときにパパは、家に帰ってこなくなった。
人魚姫とマッチ売りの少女。
昔々、あるところに精神的にどうしようもなくなった男がいました。
アンデルセン童話の人魚姫とマッチ売りの少女をモチーフに百合妄想をし始めるほどに、彼は追い詰められていました。
魔女と取引をして人間界にやってきた人魚姫は、ある日、道でマッチを売る少女を見つけました。マッチ売りの少女の声に耳を傾ける者はおらず、裸足は赤く悴んでいます。
人間になる代償として失った人魚姫の声と、叫んでも誰も振り向きもしないマッチ売りの少女の声。歩くたびにナイフで刺されたように痛む足と、寒空の下で傷ついた足。いつしか人魚姫は自身の境遇をマッチ売りの少女に重ねあわせ、同情や憐憫、愛情とも区別がつかない感情を抱き始めるようになりました。
人魚姫は無言のままマッチを買い取ったり、無くした木靴の代わりに可愛らしい靴を贈ることで、マッチ売りの少女と距離を縮めていったのです。